「炭水化物抜きダイエット」という言葉は多くの人が聞いたことがあるのではないか。「炭水化物を控えれば、その分、肉などを食べてもいい」といったものだが、実はそこには落とし穴がある。肉をたくさん食べた後、なんとなく“おならが臭い”といった経験がある人も多いだろうが、それは、お腹の中が良い状態になっていないことの表れなのだ。
腸内環境を整え、お腹の健康を気づかう「腸活」がブームになっている。そうした中、お腹の調子を整えるのに、あまり知られていない重要なことを紹介しよう──。
日本人はあまり「腸」のことについて知らない。腸には大きく分けて「小腸」「大腸」があるが、健康の鍵を握るのは、腸内細菌が多くすむ「大腸」だ。そんな日本人の大腸が近年、“劣化”しているという。
長年腸の研究を続け、『大腸活のすすめ 日本人の大腸は「劣化」している!』(朝日新聞出版)の著書がある帝京平成大学健康メディカル学部健康栄養学科の松井輝明教授が解説する。
「大腸の劣化によって引き起こされると考えられていることには、身近なところで言えば便秘や肌荒れ、さらに高脂血症などの生活習慣病、重篤な病気で言えば大腸がんがあります。日本では、大腸がんの患者がこの半世紀で8倍、女性で6倍になっています。大腸がんは女性の疾患部位別死亡率で1位になりました。また、潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患の患者数も、この30年ほどで増えています。いまブームになっている『炭水化物抜き』は、この大腸の“劣化”に拍車をかけていると考えられます」
「腸活」が注目されているが、本当に大切なのは大腸をケアすることなのだ。
では、「炭水化物抜き」が大腸の“劣化”に拍車をかけるメカニズムとは?
それを知る際にキーワードとなるのが「短鎖脂肪酸」である。短鎖脂肪酸とは、菌によって作られる脂肪酸の一種で、代表的なものは酢酸や酪酸などだ。
「短鎖脂肪酸は大腸内を弱酸性に保ち、殺菌作用によって悪玉菌を抑え込んで腸を健康に動かす働きがあります。さらに、短鎖脂肪酸は腸が動くためのエネルギーになっていることも分かっています。大腸の“劣化”を進めないために欠かせない物質と言えます」(松井教授)
松井教授らがメンバーとなっている『「大腸劣化」対策委員会』の調査によれば、短鎖脂肪酸の認知率はわずか7.8%。ほとんど知られていないが、大腸にとって重要な役割を持っているのだ。
その短鎖脂肪酸は、実はよく知られた菌から産生される。それが「ビフィズス菌」だ。
よく誤解されているが、「ビフィズス菌」は「乳酸菌」とはまったく違うもので、例えば全てのヨーグルトに乳酸菌が含まれているが、ビフィズス菌は含まれていないものが多い。「ヨーグルトで乳酸菌を摂っているから大丈夫」とは言い切れないのだ。松井教授が解説する。
「乳酸菌は主に小腸にいますが、ビフィズス菌は主に大腸にいます。そしてビフィズス菌は、乳酸菌が生産できない短鎖脂肪酸を生み出すことができます。だからビフィズス菌が大腸の健康維持にとって重要な役割を果たすと言えるのです。
ビフィズス菌が短鎖脂肪酸を生み出すためには、『水溶性食物繊維』というエサが必要です。一般的に食物繊維は野菜にばかり入っていると思われがちですが、米などの炭水化物にも多く含まれています。だから、無理な炭水化物抜きダイエットをすると、ビフィズス菌のエサを奪ってしまうことになり、大腸の“劣化”につながるのです」
炭水化物を抜いて肉ばかり食べるとおならが臭くなるのは、こういう理由があったのだ。
お腹の調子が悪くなると、多くの人が試すのが「ヨーグルトを食べる」という対策だろう。しかし、「ヨーグルトさえ食べれば安心」ではないことは前述した通りだ。
「ビフィズス菌」と、そのエサ=食物繊維を効率よく摂取することが「短鎖脂肪酸」を増やすことにつながる。それが大腸の健康を整える上でとても大切なポイントなのだ。毎日の食生活を通じて、健康を守っていただきたい。