《死ぬときぐらい好きにさせてよ》という言葉を残して女優の樹木希林さん(享年75)が旅立って1年が経ったが、彼女の存在は今も多くの人々の心を捉え続けている。
その理由は強烈な個性や型破りな生き方はもちろん、「死に方」にある。
樹木さんがこの世を去ったのは、2018年9月15日。死因は、本人が言うところの「全身がん」だった。はじめに乳がんが見つかり、2005年に手術をするも根治することはなく、次々と転移してゆく。その数は腸、副腎、脊髄など、2013年には13か所にもおよんでいた。
しかし樹木さんはがんを受け入れ、女優を引退することなく精力的に活動を続けた。
そればかりか、《人生がすべて必然のように私のがんも必然だと思っています》《がんってのは準備ができるからありがたい。それは悲壮でもなんでもないです》(過去の発言より、以下同)とがんを肯定する発言すらしている。しょっちゅう離婚危機に陥っていた夫の内田裕也さん(享年79)とも自身のがんをきっかけに関係が修復し、「離婚しなくてよかった」と言い合うようになったとも明かしている。
《手術のあとにのまなきゃいけないホルモン剤ものんでないの。あれをのむとなんだか具合が悪くて。薬やサプリメントも、そういったものは一切のんでないんですよ》と抗がん剤やホルモン剤なども使わず、最期は《病院よりは家の方がいいかな。孫の声が聞こえるところで死にたいですね。本木さんはそもそも“おくりびと”だから》という本人の強い希望により、自宅で亡くなった。
家族は樹木さんのために24時間介護できる体制を整え、意識が薄れゆく樹木さんの手をさすり、頭をなでたりしたという。
つまり、強い意志があり、事前にしっかり準備をしていれば、「いい死に方」ができる可能性があるということだ。
その具体的な方法に迫る前に、現代日本においてどのように亡くなる人が多いのかを考えたい。
最新の統計によれば、「老衰」で死ぬ人が増えているという。厚生労働省の発表(2019年7月)によると、もっとも多い死亡理由はがん(37万3547人)であり、心筋梗塞などの心血管疾患(20万8210人)が次点。今年初めて第3位に浮上したのが老衰(10万9606人)だ。昨年まで3位だった脳血管疾患による死亡数を上回ってのランクインとなった。
そもそも老衰とは、どんな状態を指すのだろう。加齢によって体が機能しなくなり、ゆっくり死を迎えるようなイメージを持つ人が多いはずだが、医療のプロたちはどう考えているのか。
在宅医療のエキスパートで多くの看取りを行ってきた長尾クリニック院長で医師の長尾和宏さんはこう言う。
「老衰の医学的な定義は、実ははっきりとは決まっていません。ただし、多くの患者さんを看取ってきた私は、その経験から平均寿命を超えた人が栄養の摂取量が減ってやせ、穏やかに枯れるように自然死することを老衰だと解釈しています」
長尾さんが年間で看取った人の約半数は老衰で亡くなっているという。