長く不治の病といわれ、取り除くことのできない痛みに耐え抜き、死によってようやく解放されるという重苦しいイメージがつきまとってきた「がん」。死因1位の病気ではあるが、現在の医療のもとでは、ずいぶん変化しているようだ。昭和大学病院緩和医療科の診療科長を務める医師の岡本健一郎さんが話す。
「どの部位のがんの、どのステージがつらい、というのは一概にいえませんが、がんは進行して神経に浸潤したり、骨に転移したりすることで格段に痛みが強くなる。逆に、がんが進行しても、あまり痛みを感じない場合もあります」
つまり、どこのがんであっても、強い痛みを伴う可能性はあるというわけだ。だが、この20年ほどの間に、飛躍的に改善したことがあると言うのは、山野美容芸術短期大学客員教授で医学博士の中原英臣さん。
「すべてのがんに共通していえるのは、痛みを充分緩和できるようになったことです。疼痛緩和の必要性が全国の医師に周知されるようになり、モルヒネなど医療用麻薬の使用が一般的になりました。使用する医師の腕も上がったので、がんが進行しても、それ自体の痛みで苦しみ抜いた末に死ぬようなことは少なくなっています。
もちろん早期発見ができるようになって助かる人が増えたことも大きく、今はそこまでがんを恐れる必要はなくなってきたといえるでしょう」
ただし、がんに対抗するために治療を長引かせることで、苦しみを生んでしまうケースもあるという。看取りの名医である在宅医療のエキスパートで多くの看取りを行ってきた長尾クリニック院長で医師の長尾和宏さん言う。
「がんそのものの痛みに加えて、放射線治療や抗がん剤治療の副作用で苦しむ人は今もいる。これはある意味しかたがない部分ですが、治る見込みがない人ががまんしてまで受けるべきかどうかは疑問。治療は“生きる人”のためのものであり、穏やかな最期を迎えるという観点からは不要なものだからです」
※女性セブン2019年10月10日号