【著者に訊け】志駕晃さん/『オレオレの巣窟』/幻冬舎文庫/690円+税
【本の内容】
あの手この手で老人から金を奪い取るオレオレ詐欺の首謀者・平田伸浩は、グループのパーティに呼んでいたコンパニオンの1人、真奈美と惹かれ合うように。真奈美は奨学金の返済に苦しみデリヘル嬢をしていたが、平田のアドバイスでキャバクラ嬢になる。そこにイケメン結婚詐欺師・竹崎、“デブス”な出逢い系のサクラをする貴美子など一癖も二癖もある登場人物たちが加わって、迎える驚愕の結末は―金をめぐる騙し騙されのどんでん返しにページを繰る手が止まらない。
デビュー作の『スマホを落としただけなのに』が映画にもなった志駕さん。新作では、何かと話題のオレオレ詐欺を取り上げた。詐欺グループを率いる平田や、イケメン結婚詐欺師、出逢い系のサクラなど、5人の男女が騙し騙されのコンゲームを展開する。
「これだけはやってて、身内に騙された人が結構いるのに、オレオレ詐欺の小説ってないんですよね。執筆中に、アポ電強盗の事件が起きたり、タイを拠点にした詐欺グループが捕まったり、闇営業の話も含めて次から次へと事件が起きて、その都度、入れなきゃいけない要素が増えて大変でした」
それだけ日本の「今」を映しとった小説ということだろう。
詐欺グループの過酷な研修の様子などもリアルに描かれる。研修の最後に平田は「オレオレ詐欺っていうのは、革命だと思っている」と言う。若者たちの罪悪感を拭い去るための詭弁だが、そこに一片の真実がないわけではない。貧困の果てに追い込まれていった若い人もいるからだ。
平田と惹かれ合う真奈美にしても、大学進学のために借りた奨学金が返せず、風俗のダブルワークをへてキャバクラ嬢になる。
「若者の貧困というのは大変なことになっているんですよね。奨学金を返せなくて、昼間だけで足りず夜も仕事をすることが普通になっている。オレオレ詐欺っていうのはそうした社会の暗部なんだと思います」
青春小説、成長小説の側面もある。読者を飽きさせない、展開の早さが身上で、これでもかとばかりにどんでん返しを畳みかける。
「今回は自分史上最多記録です(笑い)。もともとラジオのディレクターをやっていて、ラジオは聴取率をとりますから聴かれなくなる怖さが体に染み付いてる。飽きられるのが怖いんです。編集作業もしていたので、話の面白いところ、こことここをつなげばいいというのがわかっているのは、小説を書くのに役立っていますね」
現在はニッポン放送の関連会社の取締役。執筆は、毎朝5時から7時、出勤するまでの時間だ。
「資料を読み込み、アイディアを考えている時間は長いですけど、書き始めるとすごく早いです」
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2019年10月10日号