今や、大阪3大繁華街と称されるほどの賑わいを見せる天王寺・阿倍野地区。300mという日本一の高さを誇りそびえ立つ『あべのハルカス』を背にして、JR天王寺駅の北側に伸びる地下街・“あべちか”をぶらぶらと歩きながら地上に出ると、『花野商店』にたどり着く。
昭和の、あの大戦以前から暖簾を掲げている酒屋であり、押しも押されもしない浪速の立ち呑み(角打ち)屋としても愛されている店だ。だが、店内に足を踏み入れた瞬間、まあ大げさに言えば、花屋もやっているのかと錯覚してしまう。
というのも、迎えてくれた4代目店主の花野和彦さん(56歳)をはじめ、ここで角打ちをしている誰もが、花が咲きこぼれるような笑顔で楽しんでいたからだ。
「私が生まれたときから立ち呑みのできる形態の店でしたし、きょうだいで男は自分一人だけ。子どもの頃から店を継ぐ気満々でしたよ。8年前に亡くなった親父が仕切っていた時代には、気の荒いお客さんが結構いたけれど、今はええ人ばかりでね。一人で来る若い女性も増えた、毎日がそりゃあ楽しいんですよ」と花野さん。
それに続いて、カウンターに居並ぶ面々が笑顔の理由を語ってくれた。
「家は近鉄の藤井寺。仕事を終えて帰る前に当たり前のように寄らせてもらってます。ご主人が誠実で、前に出すぎないのが一番。腹が膨れるような凝った料理がないのもいい。それに、音楽がないのも静かでいいですよね。そう、ここは酒を本当に愛する人のための店なんだなあとつくづく思えて、飲んでいるうちについついうれしくなってしまうってわけですよ」(60代、大学職員)。
なるほど、酒に囲まれた店内には、ちくわ、燻製玉子、せんべいといったつまみが、ちょっとした合いの手にいかがという感じで、花(笑顔)の邪魔をしないように、遠慮がちにそれでもうまそうに並んでいるだけだ。