多くの日本人にとって、韓国は何度合意を結んでも大統領が交代するたびにひっくり返す国に映る。一方の韓国人にとって、日本はいつまでも韓国の国民感情を理解しない“傲慢な国”と捉えているのかもしれない。なぜ、そうした齟齬が生まれるのか。韓国の憲法、すなわち「国のかたち」の成り立ちと内容を知ることが、相互理解の第一歩になる。
「大韓民国憲法」の前文はこう始まる。
〈悠久なる歴史と伝統に輝く我が大韓国民は、三・一運動によって建立された大韓民国臨時政府の法的伝統と、不正に抵抗して立ち上がった四・一九民主理念を継承し、祖国の民主改革と平和的統一の使命に立脚して、正義、人道および同胞愛をもって民族の団結を強固にし(以下略)〉(有信堂高文社刊『世界の憲法集』の尹龍澤・創価大学教授による訳文。以下引用は同書による)
この前文には韓国を理解する上で重要な3つのキーワードが出てくる。「三・一運動」「四・一九民主理念」「平和的統一」だ。
「三・一運動」は日本統治時代の1919年3月1日に始まった抗日独立運動のこと。「四・一九民主理念」とは李承晩政権時代の1960年4月19日、大統領選の不正をきっかけにした民衆蜂起(四月革命)で、独裁が批判された李承晩大統領を亡命に追い込むきっかけとなった。
そして祖国の「平和的統一」とは、第2次大戦の結果、分断国家となった南北統一を意味する。日本国憲法の特徴は、世界的には「戦争の放棄」の条項だといわれる。一方、韓国の憲法は、「抗日独立」の精神と「民主化運動」「祖国統一」が理念の柱に盛り込まれているといえる。憲法学者の甲斐素直・日本大学元教授(同大大学院法学研究科講師)が指摘する。