ベストセラー『がんばらない』で知られる諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師だが、患者になった医師の著書を読み、その人と話したことで、患者としての「がんばる」意味について改めて考える機会を得た。「人を癒やすのは人」、という医療の原点へ思いをはせるきっかけとなった出来事について、鎌田氏が綴る。
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医師が患者になったとき、患者の苦しみや痛みを、身をもって体感し、多くのことを学ぶ。
三重県で緩和ケアに取り組んでいる大橋洋平医師(55)は、2018年6月、消化管からの大量出血で緊急入院し、胃に悪性の腫瘍が見つかった。消化管間質腫瘍「GIST(ジスト)」。10万人に1~2人といわれる希少がんだった。手術で胃をほぼ全摘し、抗がん剤の治療を受けた。100キロあった体重は40キロも落ちたという。
終末期のがん患者を支える緩和ケア医として、だれよりも患者やその家族に寄り添えるという自負があった。しかし、そんなものは「幻想にすぎなかった」と言う。
患者になったその日から、次々と苦しみが彼を襲った。手術日まで輸血を受け、本当に手術できるのだろうかという精神的な苦しみ。手術直後の30センチもある傷の痛み。胸やけ、吐き気、食欲不振……。
大橋医師は昨年末、そんな体験を朝日新聞の「声」欄に投稿した。苦しみに直面しながらも、〈でも私は生きている。「がんになってもよりよく生きる」とホスピス緩和ケアで言われるが、「よく」など生きられない。確実に弱っているからだ。でも、これからをしぶとく生きていく。全てのがん患者に「しぶとく生きて!」とエールを送りたい〉
力強い言葉である。