高齢ドライバーの運転ミスによる交通事故が相次ぐ中、官民挙げて自動車運転免許の「自主返納」が推奨されている。認知機能や身体機能の衰えは自分では気付きにくく、事故を起こす前に運転をやめるという選択は社会的には間違いではない。
しかし、高齢者のそうした決断が、自身の健康に悪影響を及ぼすとしたら、どうだろうか。今年9月、筑波大学の市川政雄教授(社会医学)らの研究チームが、「運転をやめて自由な移動手段をなくした高齢者は、運転を続けた人に比べて要介護状態になるリスクが2倍になる」という研究結果を発表した。
市川教授らは愛知県内に住む65歳以上のうち、2006~2007年時点で運転をしていた2844人に、10年時点で運転をしているかどうかを改めて確認した。
そして、「運転を続けた人(2704人)」「やめた人(140人)」に分け、その後6年間に要介護認定を受けた人の数を比較したところ、2010年時点で「運転をやめた人」は「続けた人」に比べて要介護状態になるリスクが2.09倍に上ったという。この調査結果について、秋津医院院長の秋津壽男医師はこう話す。
「車の運転は外に出て社会に関わることなので、それが刺激となってボケ防止に繋がるのは事実です。ただ、高齢者の自動車事故が社会問題になっていることは間違いなく、“運転を続けたほうがいい”と一概に勧めるのも医師としては考えものです。
車を運転していない人は、日頃から外に出かけて人と話し、どこのスーパーが安いかなどを考えたりすることで、認知機能や身体能力の低下を防ぐことが重要になってきます」
※週刊ポスト2019年10月11日号