現役ミュージシャンで俳優としていい味を出す人が増えているが、大友康平もその1人だ。映画やドラマで活躍中の大友が今回、演じているのは刑事。その魅力についてコラムニストのペリー荻野さんが解説する。
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千葉雄大主演のNHKプレミアムドラマ『盤上の向日葵』(最終回は10月6日再放送)は、発見された白骨死体が、なぜか数百万円の価値を持つ将棋の駒を抱くように埋められていたことから、大企業の社長の座を捨てて、プロ棋士を目指す青年・上条(千葉)との関りが浮上する。
ここでいい味を出したのは、埼玉県警捜査一課のベテラン刑事石破を演じた大友康平だ。石破は、かつてプロ棋士を目指し、挫折した女性警察官佐野(蓮佛美沙子)とともに事件を追う。駒の価値やそれを埋めた意味を佐野が必死に訴えても、捜査本部の男性刑事たちは鼻で笑うばかりだが、石破だけは佐野の言葉に耳を貸すのである。
大友といえば、来年、デビュー40周年を迎えるロックンローラー。おっさんらしいダボっとしたスーツ、やたら扇子でパタパタしながらがに股で歩く石破は、折り目正しさとは無縁のロッカー刑事である。
ロッカー刑事といえば、舘ひろしでしょという人もいると思うが、ここで思い出すのは、石橋凌だ。石橋もまたARBのボーカルだったが、俳優として活躍。TBSの横山秀夫のサスペンス『密室の抜け穴』などで渋い刑事を演じている。さらに遡れば、昭和の名シリーズ『太陽にほえろ!』のボギー刑事役で人気を博した世良公則もいる。また、80年代のトレンディドラマの代表作『君の瞳をタイホする!』には陣内孝則もいたが、犯人じゃなく、君の瞳を逮捕してどうするんだという展開のラブコメなので、これは例外刑事ともいえる。
ロッカー刑事の一番の特長は、独特の存在感だ。大友の演技について、共演したことがある船越英一郎は『ごごナマ』の中で「カリスマ性がすごい」「犬、子ども、大友康平」と評していたが、それは的を射た表現である。犬や子役はそこにいるだけでも、少し演技をしただけでもたちまち観る者の心をつかむ。ロッカー刑事に求められるのは、はみだしたイメージと事件を解決したいと燃やす魂。それさえあれば、細かい演技はしなくてもよし!
もうひとつの特長は、彼らの話し方だ。ぶっきらぼうでガラガラ声。だからこそ、ちょっと優しいことを言えば、優しさ倍増。しかも、何事もメッセージのように聞こえてくるから不思議だ。大友ロッカー刑事もまったく将棋を知らないが、「いつの世でも天才てのは、凡人にはわかんねえ重たいもんを背負ってんじゃねえのか」とか「そこに身を置いた者にしかわからないこともある」なんてことを言う。
いつも大きな声で歌っている彼らが、小さめの声で言うと、すごく重要なことを言ってるように聞こえるのである。そういえば、石橋凌は田中角栄を、大友康平も総理大臣を演じたことがある。カリスマ性とメッセージ力なくしてはできない役だ。
キャリアのある中年ロッカーたちが漂わせる「いろいろあった感」は、ドラマに深みをもたらす。泉谷しげる、武田鉄矢などフォーク畑出身の俳優とは雰囲気が違うところも面白い。地道に事件に食らいつくロッカー刑事。また観たいと思う。