日韓の外交的懸案の根底にある歴史認識問題を考えるとき、見落とせないのは韓国の司法制度、とくに「憲法裁判所」の存在だ。
韓国には最高裁(大法院)とは別に、違憲立法審査権を持つ憲法裁判所が設置され、大統領などに対する弾劾の審判も行なう。憲法裁判所の長官(任期6年)の任命も大統領の権限だ。李明博政権時の2011年8月、この憲法裁判所が日韓関係に重大な影響を与える判決を出した。
日韓請求権協定では戦争被害への補償について両国及び国民の間での請求権を「完全かつ最終的に解決」したと確認している。
しかし、元慰安婦女性らが韓国政府を相手取った訴訟で、憲法裁判所は「被害者らの日本に対する賠償請求権の有無を巡り、外交通商部長官が日韓の紛争解決に向けた措置を取らないことは違憲」と判決し、韓国政府に“日本との再交渉”を促したのだ。
この判決をきっかけに韓国大法院(最高裁)は元徴用工訴訟でも日本企業への賠償請求権を認めたが、個別の訴訟については昨年まで判決を出していなかった。
だが、文在寅政権が誕生して新たな大法院長を任命すると、韓国検察は前大法院長を「朴槿恵前政権の意向を受けて元徴用工らの民事訴訟の進行を遅らせた」との容疑で逮捕し、大法院は徴用工訴訟で日本企業に補償を求める判決を相次いで出している。最高裁長官が「判決を遅らせた」という容疑で逮捕されるなど日本の司法のあり方では考えられない。