近年では、地上波だけでなくBSやCSを通じてレギュラーシーズンの全カードが中継されるようになり、ファンはもちろんプロ野球関係者も大いに喜んでいるはず……と思いきや、現役時代に投手として歴代2位の350勝を挙げ、野球殿堂入りも果たしている野球評論家の米田哲也氏は不満気にこう語る。
「せっかく副音声っていう便利なものができたのに、そこで芸人やタレントが延々とどうでもいい話ばかりやっている。『カープ芸人』とか『タイガース芸人』とかを連れてくればファンが喜ぶと思っているのかもしれないが、そんなのはバラエティ番組でやればいいんだよ。副音声ではオレたちにもっとマニアックな話をさせてほしいね。そうすれば実績があるプロ野球OBの再雇用になるし、野球離れしたオールドファンも帰ってきますよ」
実際にプロ野球中継で解説者になれるのは元選手や監督のなかでもほんのひと握り。だが、プロ野球経験者だからこそ視聴者を面白がらせる秘話を語れると米田氏は言う。
「『今はもう時効だから話すけど……』というネタはなんぼでもありますよ。のぞき(サイン盗み)が当たり前の時代があって、サインの盗み間違いで右投手のカーブをシュートだと思って左打者が踏み込んでしまって顔面に当たったこともある。
それから、昔の審判は人間味があった。オレが選手時代は、ど真ん中でも審判が平気で『ボール』の判定を出して、詰め寄ると『半紙1枚分外れてた』なんて平気で言われたからね。逆に良く話をして親しくなった審判はここ一番でストライクの判定をしてくれたりね。表の解説では、評論家がスピードガン(ボールの速度測定)のことばかり話したり、選手をただ褒めちぎってるだけ。だからこそ裏の副音声では、昔の選手たちが、今だからこそ話せる危ない持ちネタを話せばいい」
放送コードぎりぎりの“危険球”が飛び交うプロ野球中継の副音声。確かに聞いてみたい。
※週刊ポスト2019年10月11日号