現在、動物義肢装具士として活躍している人は、ひと握り。島田旭緒(あきお・38才)さんは、東京都町田市で2007年に動物用義肢装具メーカー「東洋装具医療器具製作所」を立ち上げ、年間3000件以上、これまでに2万匹におよぶペットの義肢装具を製作している。島田さんのようにオーダーメードで型紙から起こし、素材一つひとつにこだわって作るとなると、唯一無二の存在だ。
動物向けの義肢装具がないことに、島田さんはこう言う。
「コルセットは海外の通販などでも販売されていますが、ペットにフィットしないケースがあり、装着することでかえって動物の負担になることもあります。また、微調整したくなっても対応していないケースが多く、結局、買っても無駄になってしまうという声をよく聞きます」(島田さん・以下同)
どうしても島田さんに作ってほしいという依頼があれば、北海道から九州まで足を運ぶ。取材の前日も犬の義足を作るため、車で片道3時間かけて栃木に出向き、翌日は福岡へと出かけて行った。
「休みはほとんどありません。でも、なくてもいいと思っています。獣医学の世界は日進月歩で、医学の常識もガラリと変わります。そのため、勉強して獣医師と情報交換しないと、動物にとって最適の器具は作れませんから」
今は妻と義兄が経理や納品を手伝い、コルセットの縫製を担当するスタッフを含めると8人で製作している。だが、型紙を作るのは島田さんの仕事だ。
「型紙はやはり自分で作ることにしています。人間の足の形が一つひとつ違うように、動物も違います。だから、自分で見てきたことを大切にしたいんです」
そんな島田さんのデスクには、動物のサイズがミリ単位で書かれたノートが広げられていた。ここに過去10年分のデータが保存されている。完成した装具は動物病院に島田さん自らが届け、飼い主に用途や素材、使い方などを説明する。
実際、どのようにしてペットに装具がつけられるのか。納品に行く島田さんに同行すると、東京都足立区の「大師前どうぶつ病院」で、トイプードルのリリーちゃん(メス・7才)が待っていた。
リリーちゃんは、免疫不全により前足の関節が曲がってしまったため、外を歩くことがままならない様子で、痛みからか患部をなめたことにより、毛が抜けてしまっている。
「装具で足を固定させることで、少しでも歩行が楽になるようにしたいと思っています」
完成した装具を、同病院の中島渉院長とともに、リリーちゃんの足に装着。面ファスナーでつけ外しができるうえ、メッシュ素材で通気性をよくするなど、足への負担が極力軽減されている。