かつて、民放ドラマの定番枠といえば2時間ドラマだった。今はすっかり消滅してしまい、地上波以外で放送される機会が増えている。そんな2時間ドラマの魅力についてコラムニストのペリー荻野さんが改めて考察する。
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9月からBS・CSの6チャンネルが合同で2時間サスペンスドラマ特集して放送中だ。放送は合計2000時間を超える大特集になっている。
2000年代以降、私は2時間ドラマの関係の取材をする機会が多かった。2007年、古谷一行・木の実ナナ主演の土曜ワイド劇場の人気作『混浴露天風呂連続殺人』シリーズ完結の際には、現場取材しますか?と聞かれ、「ぜひとも!!なんなら混浴する覚悟です」と応えたところ「それはいらないです」と笑顔で断られた経験もある。名誉の混浴ならず…。そんなこともありながら、取材を通じて感じたのは、想像以上に2時間ドラマの現場は厳しいということだった。
たとえば、定番の崖シーン。崖での犯人の告白は、とにかく長い。犯行をなかなか認めないところから、やっと認めても、なぜ、そこに行きついたか。自分の暗い過去について回想シーンを流し、やがて緊迫の犯行シーンを再現。その合間に刑事・探偵から説得やらトリックの指摘やらが入るという具合だ。
先日、この企画で放送された片平なぎさと船越英一郎の名コンビによる『小京都ミステリー』第14弾「山陰但馬殺人事件」。崖というより、海辺で犯人と向き合うふたり。なぎさが「あなたは…なのね」と一言いえば、ザッパーン、たっぷり回想した犯人が「私は…捨てたくなかった」ザッパーン、船越がちらりと映ってザッパーン。
なぜ、崖で告白するのかについては、「犯人が追い詰められて後がない緊張感を象徴している」「悲惨な事件の告白をするのに息苦しさを感じさせないため」など諸説あるが、改めてこのザッパーンを聞いてみて、延々続く告白時間に波の音は、いいリズムを醸し出すのではという気もしてきた。
実際の撮影は当然のごとく吹きさらしで、日陰もなし。「崖のあとはお肌のためにとにかく冷やす!!」と語ってくれた主演女優もいた。また、2時間サスペンス40年余りの歴史の中で、崖シーンをはじめ、犯人が誰か発覚する時間は、次第に早まる傾向があったとも聞いた。視聴者のライフスタイルが変わり、ドラマに対してせっかちになった結果だろう。
視聴率についてもとてもシビアで、シリーズもかなりの実績がないと続かない。自分の原作ドラマが放送された翌日、必ず関係者に電話して視聴率を聞くミステリー作家もいたという。
そんな中、「ラーメン刑事」「大家族デカ」「スチュワーデス刑事」「お祭り弁護士」など、ユニークなキャラを作り続けた2時間サスペンスには、ドラマ作りのど根性を感じる。不景気風の中でも戦い続けた珠玉のドラマが、2000時間に詰め込まれていると思うと、見逃してきたお宝作品に巡り合いたいという気持ちもわいてくる。個人的には、驚くべき場所から凶器が発射されるなど、毎回アナログなトリックにうならされた愛川欽也の「美人殺し」シリーズ(今回の企画ではチャンネル銀河で放送中)など、若者世代にもぜひ見てほしい。「まさか、ここから!?」とひっくり返ると思う。何度見てもひっくり返ってる(それが楽しい)私が言うんだから、間違いない。