試合前の整列。スタジアムに「君が代」が流れると、桜のジャージの外国人選手たちが斉唱を始めた。目に涙を溜める選手もいる。日本を背負って戦う責任感と武者震い──。彼らはなぜラグビー日本代表を選んだのか。日の丸の勝利のために戦うのか。ノンフィクションライターの山川徹氏が、彼らの想いと足跡を追った。
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ラグビー日本代表のチームワークを象徴するシーンだった。日本代表12番の中村亮土(28才)が、アイルランド10番の突進を突き刺さるような低いタックルで食い止める。次の瞬間、日本代表4番のトンプソンルーク(38才)が、ボールを奪おうと高めのタックルを浴びせ、相手を仰向けに倒す──。
9月28日、ラグビーワールドカップ(以下、W杯)の日本対アイルランドの一戦。日本中を沸かせたジャイアントキリング(大番狂わせ)の一因が、繰り返されたダブルタックルだった。アイルランド代表に比べ、小柄な日本代表は1対1では当たり負けしてしまう。そこで必ず2人でタックルに行く戦術をとっていたのである。
それが見事に決まったのが冒頭のプレーだ。6対12のアイルランドのリードで迎えた前半34分。中村とトンプソンのダブルタックルにより、日本はゲームの流れを引き寄せる。その後のスクラムで奪い取ったペナルティーと、直後のペナルティーゴールを糸口に、日本は反撃に転じた。
前半を9対12で折り返した日本は、後半18分に逆転のトライ。さらに4本目となるペナルティーゴールで19対12と突き放し、勝利を奪った。世界ランキング2位の優勝候補から奪った大金星は、日本だけではなく、世界中のファンを驚かせた。さらに10月5日のサモア戦も38対19で勝利。日本としてはW杯ではじめて3連勝を挙げて、史上初のベスト8進出に弾みをつけた。
中村とトンプソンのダブルタックル。そして、韓国、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、そして日本にルーツを持つ8人の選手が一塊になって、アイルランドを押し込んだスクラム。何よりも、そうした多様な背景を持つ選手たちが、ひとつになって果敢に戦う日本代表のプレーが、国境を超えてファンの心を掴んだのである。
◆合宿中に「君が代」の練習を続けてきた
キャプテンとして代表を率いるのが、リーチマイケル(31才)である。ニュージーランド出身の彼は、日本代表になった動機をこう振り返る。