芸能

『まだ結婚できない男』の阿部寛が大絶賛されたのはなぜか

偏屈極まりない男を演じる阿部寛

 時代は変化する。ヒットの法則はあれど、求められる役割が変わってくるのはビジネスマンも役者も同じ。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。

 * * *
 2006年から13年が経ち『結婚できない男』の続編『まだ結婚できない男』(フジテレビ系 火曜日午後9時)が始まりました。さっそく話題を振りまいています。Twitterのトレンドランキングでは世界1位になる盛り上がり。初回視聴率は関西15.7%、関東11.5%と見事なロケットスタート。

『まだ結婚できない男』の主人公は……偏屈で独善的で皮肉屋の建築家・桑野信介。阿部寛が演じる変人・桑野を、「待ってました」と暖かく出迎えた視聴者。「昔とちっとも変わらない」と歓喜。「おかえりなさい」「お変わりなくて何より」と大絶賛です。

 このドラマ、たしかに主人公の奇妙な魅力がエネルギーの源と言えるでしょう。自宅では大音量でクラシックを聴きご満悦。眉間にしわを寄せて小理屈やウンチクを垂れ流し、一人流しそうめんを食べている時はニコニコ顔。そう、あの桑野信介は健在です。

 しかし、13年を経て世の中は変化しました。

 まず、IT化した環境。桑野はスマートスピーカーに指示を出し、しもべとして使いこなす。孤高ぶりは輝きを維持しています。もう一つ大きく変化したのが、「結婚できない男」の存在。すでに当たり前になった世の中でもはや自虐ネタでも何でもなく、日常化したお一人様。

 そのように、桑野をとりまく環境に変化はある。しかし、視聴者が見たいのは「他者を意に介さない独善家が、時に心を揺さぶられ、ささやかに変身していく」愛らしい姿です。そのポイントさえしっかりと押さえれば、いかなる時代の変化もさして問題ではない、ということを第一話は見事に証明しました。

 このドラマを見ていて何よりも感銘を受けるのは、「役者」という存在の奥行きでしょう。

 阿部さんの出発点はご存じメンズノンノのモデル。身長が高く彫りが深い、まさしく正統派二枚目のイケメン。下手すれば同じような二の線の役柄しかもらえず、年をとればそれもつらくなり、先細りになりかねない。実際、阿部さんにもそんな不遇の時期があったそうです。

 しかし、結果として見事に「三の線」へと転換を果たした阿部さん。きっかけは『TRICK』、不動の地位を築いたのが『結婚できない男』と言えるかもしれません。

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