試合前の整列。スタジアムに「君が代」が流れると、桜のジャージの外国人選手たちが斉唱を始めた。目に涙を溜める選手もいる。ラグビー日本を背負って戦う責任感と武者震い──。彼らはなぜ日本代表を選んだのか。日の丸の勝利のために戦うのか。ノンフィクションライターの山川徹氏が、彼らの想いと足跡を追った。
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今回のW杯に参加する20か国のうち、ニュージーランド出身の選手を起用する国は日本をはじめ10か国。実に約50人のニュージーランド出身選手が母国とは異なる国の代表としてプレーしている。逆に韓国出身のプレーヤーは、20か国で1人である。日本代表としてプレーする具智元(グ・ジオン 25才)のみだ。
ニュージーランドと韓国では、そもそもの競技人口が違う。一説によるとニュージーランドのラグビー経験者は国民の6%の30万人以上にのぼるという。一方、韓国は千数百人がプレーしているにすぎない。ニュージーランドでは、韓国の150倍以上の人が楕円球に親しんでいる計算になる。ちなみに、日本の競技人口は約18万人だ。
たとえば、「好きな町に暮らし、その国を代表して戦う。そこがラグビーのいいところ」と話す世界一のラグビー大国ニュージーランド出身の日本代表4番・トンプソンルーク(38才)と、韓国出身の具では立場が違うのではないだろうか。
元韓国代表の父(具東春)を持ち、日本のトッププレーヤーに成長した具を韓国代表に、と推す声はなかったのか。あるいは父もプレーした母国の代表として戦いたいとは思わなかったのか。そんな質問に対して、具はよどみなく答えた。
「ずっと日本代表に憧れていましたし、お父さんも『日本代表を目指しなさい』と応援してくれていたので迷いはなかったです。日本で暮らしはじめて11年になります。韓国と同じくらいの時間を日本で過ごしました。韓国だけではなく、日本も“自分の国”という意識があります。それに日本代表には、ニュージーランドやオーストラリア、南アフリカ、トンガ、サモア。さまざまな国の選手がいる。それがプラスに働いているチームです。そこで自分の力を発揮したいと思いました」
そして、彼は慎重に言葉を選び、緊張気味に続けた。
「今、日韓の間でいろいろありますが、韓国人のぼくも日本代表として応援してもらえる。本当にいい環境でラグビーをやらせてもらっている」
近年、日韓の間でさまざまな問題が噴出している。だが、そんな状況だからこそ、国家間の政治的対立を超えて、理解し合えるのがスポーツの魅力なのではないだろうか。
具の日本代表選出に反対する日本のラグビーファンはいない。一方の韓国での反応はどうなのだろうか。