日本でもすっかり定着した感のあるビール祭り「オクトーバーフェスト」。今や季節を問わず日本全国で開催されているが、本場ドイツのオクトーバーフェストは9月から10月にかけて催される世界最大のビール祭りで、世界中から見物客が訪れる。その起源について歴史作家の島崎晋氏が解説する。
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日本ではビール全体の売り上げが落ち込むなかで、クラフトビールの売り上げだけは右肩上がりを続けている。ここには「とりあえずビール」で育った中高年層と、「どうせ飲むなら特別なビール」という若年層との意識のギャップがもろに反映されている。
ビールに関する世代間ギャップといえば、「夏はやっぱりビール」という考えはもう古く、「ビールといえば10月」というイメージが年々強まりつつあるように思う。それはドイツ最大級のビール祭り「オクトーバーフェスト」を日本でも定着させようと続けられてきた30年以上にも及ぶ地道な普及活動の賜物でもあった。
日本のビール酒造組合の調査(2017年)によれば、ビールの1人あたりの消費量世界一はチェコで、183.1リットル。2位が大きく引き離されてオーストリア(同106.6リットル)、3位が僅差でドイツ(同100.1リットル)。チェコ人1人あたりのそれは日本人(同40.1リットルで50位)の4倍強、オーストリア人とドイツ人のそれも日本人の2倍強にあたる。
人口に占める醸造所の数ではベルギーが世界一だが、ドイツも決して負けてはおらず、世界屈指の地ビール王国と呼んでも過言ではない。銘柄ごとにジョッキも違えばコースターも違う。ビールをとことん楽しむ環境が整っているのだ。
そんなビールの本場ドイツの「オクトーバーフェスト」だが、発祥の地は南部有数の大都市ミュンヘンである。ときに1810年10月12日のこと、バイエルン王国王太子の結婚祝いが華やかに執り行なわれ、競馬や陸上競技、格闘技などさまざまなイベントに加え、市民たちには浴びるほどのビールが振る舞われた。
これに味を占めた市民たちは、同じようなイベントを毎年開催してくれないかと申し入れた。競技はともかく、せめてビールを思う存分飲めるイベントだけでも開かせてくれまいかと。王室がこれに同意して広大な野原を開放してくれたことから、ミュンヘン名物の「オクトーバーフェスト」が定着するようになったのだった。