「NHKはまるで暴力団」──かんぽ生命保険の不正販売に関する報道についての日本郵政副社長の発言が物議を呼んでいるが、もしこれが「まるでヤクザ」と言っていたら、テレビでは取り上げられなかったかもしれない。暴力団取材に精通した溝口敦氏と鈴木智彦氏が、知られざる放送コードを明らかにする。
鈴木:これからテレビでは、「ヤクザ」という言葉が放送禁止になって使えなくなるそうですよ。『ヤクザと原発』(文藝春秋)を出したときに、フジテレビの番組に出演したんですが、映像で書影は出すが「ヤクザ」という言葉は言えないからナレーションはつけられませんと言われた。ナレーションでは、「鈴木さんの著書」とだけ。
溝口:「暴力団」という言葉は警察が使い始めた言葉だけど、これが正式名称ということになるんじゃない? 「ヤクザ」という言葉は江戸時代からある言葉だけども、要するに、ヤクザという存在を認めている人たちが使う言葉なんだろうね。
鈴木:「ヤクザ」は彼らを美化する言葉。ロマンチックな響きがあるからでしょうね。しかし、放送禁止用語って、一般的に、差別されている人々に対する蔑称とかが禁止になりますよね。「ヤクザ」を禁止する基準って何なんですかね。
溝口:「ヤクザ」をやめて「暴力団」にするというのは、警察の呼称に合わせているんだと思う。マスコミは警察に牛耳られている。それは記者クラブ制度のせい。
鈴木:新聞やテレビの暴力団担当の記者は、実際は暴力団を取り締まる警察の担当で、その警察から暴力団の情報をもらって書いている。
記者の大半は、警察発表と検察発表を整合させて、これを「裏を取る」と言っているわけです。当該暴力団にアテるわけじゃないんです。彼らの裏取りは政府情報と政府情報を足して、それで合わせるから暴力団に接触なんかしない。そもそも「接触するな」って言われているから。
私がヤクザ雑誌にいた頃は、警察と仲良くしたことなんかなかった。暴力団から直接情報を取れば、警察とのパイプはいらないんですよね。直で入ってくるんですから。こっちが警察に教えてあげることはあっても、向こうから教わることは何もなかった。
溝口:暴力団には接触しないから、警察からの情報に頼るしかなく、結果的に警察に牛耳られることになる。警察もそれを望んでいる。だから、警察発表通りにマスコミは発表していくだけ。
※溝口敦/鈴木智彦・著『教養としてのヤクザ』(小学館)より一部抜粋