患者が知っておくべき「薬と病気の真実」──医師は、それぞれが所属する学会が定めたガイドラインを参照しながら患者への治療方針を決めるのが基本だ。そこには処方すべき薬剤の優先順位も記載されているが、ガイドラインを策定する立場にある学会理事の医師らに対し、製薬会社から多額の謝礼が支払われていることがある。
『知ってはいけない薬のカラクリ』著者で、ナビタスクリニック川崎の谷本哲也医師がこう明かす。
「私が医師になりたての2000年ごろは、製薬会社の担当者から高級料亭での接待に連れ出されることも珍しくありませんでした。いまでは規制がかかるようになりましたが、それでも製薬会社が講演会を開き、医師らに1個2000円ほどの弁当を用意するなどして歓待しているのです。アメリカで行なわれた研究では、製薬会社から提供を受けた食事代が20ドル(約2200円)未満だったとしても、医師はその会社の薬の処方率を増加させていたと報告されています」
世界的には、医師と製薬会社のカネの流れを明確にする方向にある。だが、日本は遅れているという。
「アメリカでは2010年に、製薬会社や医療機器メーカーに対して、医師に支払った謝礼の記録の報告を義務化する法律が制定されました。集計されたデータは国民に公開されています。
一方で、日本ではそういった法整備はされていない。そこで、私が所属するNPO『医療ガバナンス研究所』とジャーナリズムNGO『ワセダクロニクル』が共同して独自調査を行なった結果、2016年に製薬会社から謝礼を受け取っていた医師約9万8000人のうち、2000万円以上の謝礼を受け取っていたのが9人、1000万円以上だと111人いることが判明しました。ガイドラインの策定にかかわるような権力を持った医師に謝礼が集まりかねない構造になっている以上、金銭の流れを公明正大にする必要がある」
※週刊ポスト2019年10月18・25日号