ドラマの評価は、脚本・演出・芝居の精度で決まる。すべてが高次元で組み合わされるのが理想だ。ドラマウオッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が期待の朝ドラについて分析した。
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NHK朝ドラ『スカーレット』が始まりました。第1週~2週目は子役中心の構成だったため、ジリジリさせられた視聴者も多かったかも。10月10日、いよいよ喜美子役・戸田恵梨香の姿が画面に現れ、「いよっ待ってました!」と喝采が聞こえるようでした。
31才の女優が、セーラー服にモンペ姿の15才として現れた瞬間は、正直ちょっと無理があるかも、という思いがよぎったのです。しかし、パンっと跳ねるような若々しさで「わーい!」と声をあげながら自転車で疾走する戸田さんの姿を見て、納得。役作りへの意欲、躍動感が伝わってきたからです。「15才ね、わかった」と説得されたような勢いを感じました。そうなればもう実年齢なんて関係ない。
そして、喜美子の幼なじみ・照子を演じる大島優子さんも輝いていました。喜美子と照子、二人のからみのシーンは息があっていて楽しい。柔道の技をかけ取っ組み合うシーンなんか、エネルギーがほと走っていました。
それに同級生・信作を演じる林遣都、母のマツの富田靖子、父・常治の北村一輝……安定感のある役者が配置されていて好感。ということで、まずは「信楽編」の役者たちにほっとしたのです。しかしそれも、つかの間でした。
信楽で仕事を得ることができなかった15才の喜美子が、大阪へと移動したそのとたん。31才の戸田さんが、ちらりちらりと垣間見えるようになったからです。
女中の仕事につくはずの喜美子がクビを言い渡され、あらためて「女中として働かせて下さい」と嘆願するシーン。もし、小娘が大ベテランの女中・大久保のぶ子(三林京子)から、クビを言い渡されたら?
ひれ伏して「どうしてもここに置いてください」「実家は貧しいので帰れません」「どうかお願いします」と泣いて頼むのが関の山でしょう。ところがどっこい、社会経験もない15才の子供が、白髪の大先輩相手に理屈をこねるこねる。
「柔道なら、大久保さんはわたしの対戦相手です」と、まずは挑発的に話をふってみせた。
そして、「大久保さんは、お子さんを4人育てられて、厳しい姑さんを看取ってこられたんですよね? すごい事やと思います。でも大久保さん、『家の仕事は誰にでもできる』って言いましたが、そやろか?」と、前提に対して疑問符を付けてみせる展開。まるで安手のプレゼンテーションのよう。
これが田舎から出てきたばかりの見習い? ありえない。こんな「話の持って行き方」、子供にはできない。そしてオチはヨイショときました。
「大久保さんのご飯いただきました。おいしかったです。大久保さんやから作れたご飯やと思います。うち、家事は誰にでもできる仕事だとは思いません。いつか、『あんたにしかできん。参りました!』と言わせてみたい。そう思いました。どうか雇ってください。戦わせてください。お願いします!」
いろいろな人に接して社会で苦労し世の中の成り立ちもわかり、口先も立つようにならなければできないような大演説ぶりです。