高齢者の独居は増える一方だ。高齢者を対象にした大規模疫学調査によると、ひとりで食事をする“孤食”は欠食、野菜やくだものの低摂取頻度、肥満、低体重、うつ、さらには死亡にも関連するという。
家族と同居していても、生活サイクルの違いなどで、孤食になる高齢者も少なくないというが、住居や生活形態の面から孤食問題を解決するのは、現実には難しい。しかし、食事は生きる基本であり、喜びでもあるはずだ。
たとえ孤食でも、老親にとってよい食生活を支えるために何ができるか。地域の食支援にも尽力する大妻女子大学教授で著書に『老後と介護を劇的に変える食事術』(晶文社)などがある川口美喜子さんに聞いた。
「高齢になると咀嚼や嚥下の機能が落ちて、硬いものを食べるのが億劫になります。するとつい、やわらかくて食べやすいものばかりを口に入れる。とりあえずお腹を満たすことが食べる目的になりがちです」と言う川口さん。
たとえば朝はアンパン、昼はそば、おやつにアイスクリーム、夜は簡単な総菜やおにぎり。その都度、満腹になり、なんとなく“食べている”気になるのは、私たちの忙しい日常にも思い当ることがある。
「糖質過多でぽっちゃりした体形は一見、健康そうでも、たんぱく質などが足りていないので筋肉は減り、転倒や骨折もしやすい状態。低栄養は食べずにやせ細っているとは限らないし、低栄養で糖尿病という人もいるのです」
明日も仕事や家事が忙しいと思えば、しっかり食べて英気を養おうとするもの。でもそんな生活から解放された高齢者にとって、食事の意味は変わってくるのかもしれない。
川口さんは、孤食など食事の問題を抱える人のために、高齢者率の高い都営戸山ハイツ(東京都新宿区)などで、食事会を開催している。
管理栄養士でもある川口さんの指導のもと、近くのスーパーで買う食材で手作りされ、週1回、20人前後の住民が食卓を囲む。栄養バランスの取れたおいしい料理が評判で、今年で8年目だという。
「私たちが意識しているのは旬の食材と、ひとりでは作らない少し手の込んだ家庭料理。 調理のいい香りに誘われてやって来て、揚げたての天ぷらをサクッと頬張る感動。旬の香り、手間暇かけた丁寧な味わい。豊かな“おいしさ”への感動が毎週参加する原動力になるようです」