映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、普通の人をホームドラマで演じているイメージが強い俳優の岡本信人が、人形劇で三国志の曹操・董卓といった権力者を演じた思い出について語った言葉をお届けする。
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岡本信人といえばホームドラマなどでの日常的な役柄のイメージが強いが、一九八二年に始まる『人形劇三国志』(NHK)では曹操・董卓といった悪役ポジションの権力者の声を憎々しく演じる一方、周瑜のような二枚目も演じ、驚かせてくれた。
「なんで私なの、と最初は思いました。ありがたかったですね。曹操をやらせていただきながら、敵の周瑜もやったわけですから。
声を変えたりしながら、自分なりにいろいろ工夫をしました。自分自身が出ていない本当の意味での『お芝居』みたいなことをしたと思います。声だけで出ていたからできたんじゃないですかね。くさくても、それらしくやればいい──みたいなところがありますから。
ですから、上田吉二郎さんの『てめえらっ!』って声をマネしてみたりもしましたよ。人形の顔が素敵だったから、自分もその気になっちゃったんです」
尊敬する役者として挙げたのが、森繁久彌だった。
「十歳くらいの時に森繁さんの『社長』シリーズを観て大笑いしていたんですよね。存在感が大きい方でした。『社長』だと脇に三木のり平さん、小林桂樹さん、山茶花究さん、フランキー堺さん──普通なら食われてしまいそうな人たちばかりいます。ところが森繁さんは『どうぞお入りなさい』みたいな感じで鷹揚に構えている。そういう大きさがありました。
しかも、凄くおかしい喜劇なのに全くわざとらしくない。ギャグじゃなくて人間の機微の面白さなんですよね。そういうのを観て育ったもので、いつの間にか僕もそこを目指しているみたいなところはあります」