放送作家、タレント、演芸評論家で立川流の「立川藤志楼」として高座にもあがる高田文夫が『週刊ポスト』で連載するエッセイ「笑刊ポスト」。今回は、「ただいま」の一言が泣かせるトラと走る姿を「お帰り」と応援したいネコについてお送りする。
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今回は久しぶりに会ったトラとネコの話。なんと『男はつらいよ50 お帰り寅さん』と題して新作ができたのだ。映画版の第1作から50年、私なぞその前のテレビ版からずっと見ていたのだ。
世は学園闘争、深夜映画でヤクザ(高倉健・鶴田浩二)を見て、テレビではテキ屋(渥美清)に夢中という心の中まで皆やさぐれていた時代だ。大学生だった私も旅から旅へと流れてみるかなぞ思っていたら、最終回、いきなり寅さんはハブに噛まれて死んじゃった。
「ふざけんなこの野郎。寅を殺すバカがどこにいる」酔っ払った私のフジテレビへの抗議の電話ラッシュで、急遽あわてて映画化することとなる。寅さんが我々の前からふと姿を消して20年以上の時が経つ。会いたい。寅にもさくらにも満男にも……。
「行く寅や昭和は遠くなりにけり」
こんな心境のところへこんな泣かせるコピーが。「ただいま。このひと言のために、旅に出る」試写を見る前から心の中のハンカチで瞼を押さえていた。「相変わらずバカか」寅さんの声がきこえた。