【書評】『座右の銘はない あそび人学者の自叙伝』/石毛直道・著/日本経済新聞出版社/1800円+税
【評者】岩瀬達哉(ノンフィクション作家)
考古学者を目指していた著者が、文化人類学へと研究進路を変え、「料理人類学という分野を開拓」してきた破天荒で痛快な半生記。座右の銘によって、かくあるべしという枠を自分に課すことを嫌い、「『おもろい』ことで時間を消費し、その副産物として」の研究成果をものにしてきた。
転機となったのは、京大大学院の院生としてインドネシア領ニューギニアの西イリアン学術探検隊に参加したことだった。遺跡の出土品からではなく、石器時代の生活様式が残る部族とのナマの暮らしから、文明の未来を探る人類学に魅了されてしまったのである。
新京都学派の大御所、生態学の今西錦司に目をかけられ、「文明の生態史観」で一世を風靡していた梅棹忠夫からは、牙をむきだせ。牙を失ったイノシシはブタになってしまう。ブタになるな!と鍛えられた。
梅棹研究室の助手としてアフリカに送り出されるや、居候として部族の家に転がり込み、「家族が起きるときには一緒に起床し、朝食を共にしたあと、畑仕事にも、放牧にもついていき」「だいたいのことがわかったら、別の家庭に居候をする」。この「居候方式」によって、生活様式と物資文化の比較を短期間に成し遂げた。