阪神ファンは対巨人となると、がぜんライバル心をむき出しにして応援する。伝統の一戦というだけでなく、1978年の「江川事件」における、巨人軍フロントのごう慢な態度への不満がくすぶり続けているからだとも言われる。
1978年11月21日、「空白の1日」を利用して江川卓を獲得した巨人のルール破りに抗議する形で、翌22日のプロ野球ドラフト会議では4球団が江川を1位で強行指名した。抽選で阪神が交渉権を獲得したものの、正当性を主張する巨人と真っ向から対立。巨人が新リーグ結成をチラつかせるなど球界を揺るがす大事件に発展した。
年末のプロ野球実行委員会では、最善策として「阪神と契約後、キャンプインまでに巨人へトレード」が提言された。阪神は「交換相手が王貞治でもNO」と反発を続けたが、すったもんだの末にトレードが成立。小林繁に白羽の矢が立った。小林は1月31日、宮崎キャンプへ向かおうとした羽田空港で急遽ハイヤーに乗せられ、巨人の球団事務所でトレードを伝えられた。
「阪神は西本聖を指名して水面下で交渉していたが巨人が拒否。発表3日前に小林で決着がついていた。ギリギリまでズレ込んだのは小林がなかなか捕まらなかったから」(デイリースポーツ元編集局長・平井隆司氏)
小林は阪神移籍1年目に巨人戦8連勝を含め22勝を挙げ、沢村賞にも輝いた。小林の活躍がなければ阪神ファンの怒りは収まらなかっただろう。
※週刊ポスト2019年11月8・15日号