夫婦喧嘩は犬も食わない、という。が、揉め事はやはり避けるに越したことはない。中国の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
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2億台とも言われる監視カメラ。顔認証との組み合わせて国民の暮らしはすべて監視されている──。もはや日本でも当たり前のように言われる中国社会の特徴の一つだ。だが、やっぱり相変わらずだな、と感心されられるニュースが届いた。
10月17日付『人民日報』の記事、〈女の身分証の顔写真が美しすぎる! 警察官がちょっと調べたら発覚……〉である。
10月10日、広東省佛山市の商店街で一組の夫婦が激しく言い争いをしているとの通報が南海公安分局に入った。同局指揮センターは直ちに平洲派出所に命じ、警察官を現場に向かわせた。警官の名は曹氏であった。夫婦の争いは、生活上の些細なトラブルだったが、曹警官は二人に身分証の提示を求めた。二人は素直に従ったが、妻の出した身分証の写真を見た瞬間、曹警官は違和感を感じたという。
身分証の写真が、あまりにも美しかったのである。さらによく見ると耳の露出もない。また身分証の透かし印もないのだ。
こうなれば問題が明らかになるのに多くの時間は要しない。まもなく、女がネットを通じてニセの身分証を手に入れていたことが発覚した。値段は、わずか300元(約4500円)だった。
女がニセ身分証を買った動機は、クレジットカードの支払いが滞ったことで、2019年8月から生活上の制限を受けていたためだという。そんな危うい立場でありながら、繁華街で、通報されてしまうほどの激しい夫婦喧嘩をするとは……。中国でデジタル化が進んでも、変わらないものは変わらないのかもしれない。