映画『ジョーカー』の快進撃が止まらない。2019年のベネチア国際映画祭で最高賞「金獅子賞」を獲得し話題となったが、公開後も世界中で大ヒットが続き、全世界の興行収入は900億円突破が見込まれている。作家の島崎晋氏が、本作のヒットの裏側を考察する。
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日本でも大ヒット上映中のハリウッド映画『ジョーカー』。ジョーカーとはアメコミが原作のバットマン・シリーズに登場する悪役の名前で、これまで何度もテレビや映画で映像化されてきた有名キャラクターだ。このジョーカーを主人公にオリジナル脚本で作られた本作の公式サイトには、こう書かれている。
「『どんな時も笑顔で人びとを楽しませなさい』という母の言葉を胸にコメディアンを夢見る、孤独だが心優しいアーサー。都会の片隅でピエロメイクの大道芸人をしながら母を助け…(中略)…笑いのある人生は素晴らしいと信じ、ドン底から抜け出そうともがくアーサーはなぜ、狂気あふれる〈悪のカリスマ〉ジョーカーに変貌したのか?」
ここではピエロ(英語ではクラウン)からジョーカーに変貌を遂げたとあるが、ジョーカーといえばトランプのジョーカー(日本でいう「ババ」)が思い浮かぶ。ジャックやクイーン、さらにはキングやエースよりも強いカードだが、そこにはトリックスターと嫌われ者の要素はあっても、ヴィラン(悪役)のイメージは薄い。
映画『ジョーカー』の、顔面白塗りで口周りに大きな口紅のメイクはピエロそのものだが、なぜ〈悪のカリスマ〉にジョーカーと名乗らせたのか。そもそも、ジョーカーとピエロの違いは何なのか。
一説によれば、ジョーカーのルーツは中世ヨーロッパの宮廷道化師にある。王侯貴族の館で養われるペットのごとき存在で、常に奇抜な衣装とメイクで身を包み、たとえその言動が主人を揶揄・風刺する内容であろうと決して罰せられることのない特権を有していた。どんなジョークも許されたからジョーカーと呼ばれたとする説もある。
一方のピエロ(クラウン)は民間の芸人一座やサーカス団の道化師がルーツで、白塗りの顔に目の下の涙マークやだぶだぶの衣装などが特徴だ。おどけと突っ込みなどの役割を演じる。