45年間連れ添った最愛の妻が、夫に残した『七日間』という詩が2018年3月9日付の朝日新聞に掲載されて以降、話題となっている。神奈川県川崎市の宮本英司さん(72才)は、妻・容子さんを2018年1月に小腸がんで失った(享年70)。2年半に及ぶ闘病中、夫婦は病室で交換日記を重ねるほどに互いを信頼し合っていた。そこに残されたのが『七日間』だった。
『七日間』
神様お願い この病室から抜け出して 七日間の元気な時間をください
一日目には台所に立って 料理をいっぱい作りたい あなたが好きな餃子や肉味噌 カレーもシチューも冷凍しておくわ
二日目には趣味の手作り 作りかけの手織りのマフラー ミシンも踏んでバッグやポーチ心残りがないほどいっぱい作る
三日目にはお片付け 私の好きな古布や紅絹 どれも思いが詰まったものだけど どなたか貰ってくださいね
四日目には愛犬連れて あなたとドライブに行こう 少し寒いけど箱根がいいかな 思い出の公園手つなぎ歩く
五日目には子供や孫の一年分の誕生会 ケーキもちゃんと11個買って プレゼントも用意しておくわ
六日目には友達集まって 憧れの女子会しましょ お酒も少し飲みましょか そしてカラオケで十八番を歌うの
七日目にはあなたと二人きり 静かに部屋で過ごしましょ 大塚博堂のCDかけて ふたりの長いお話しましょう
神様お願い 七日間が終わったら 私はあなたに手を執られながら 静かに静かに時の来るのを待つわ 静かに静かに時の来るのを待つわ
容子さんを失った今、英司さんは何を思うのか。天国の容子さんへ書いた英司さんの手紙を紹介する──。
* * *
君が逝ってから1年8か月が過ぎました。愛犬の小春も今年の3月にそちらにいきましたが、会えましたか? 容子の好きなおかあさんや省一兄さんとも会えましたか? そちらではどんな暮らしをしているのかな。
料理や洋裁や針仕事などの趣味はできないかもしれないけど、痛みや苦しみからは解放されていますよね。
君と過ごした病室での最後の2か月、君は食べることも、歩くこともできなかったけど、ずっと一緒に過ごしたね。
私も小春(注:飼い犬)の散歩以外は君に付き添って病院に泊まっていました。だんだんと悪くなってゆく君をみるのは辛かったけど、君といられるだけで良かった。時には君が1日中眠り続け、お話ができない日があっても、そこに君がいるだけで良かった。今から思えばとても濃厚な日々でした。未だに昨日のことのように思い出されます。
最終的に体調が悪化して叶わなかった一時帰宅。もしできていれば君は何をしただろうね。
七日間あれば君の作った詩のとおりに。でももし一日だけだったら、台所で料理を作っていただろうね。いつも自分の体よりも私の体のことを心配していた君のことだから。そしてもう一日あったら、やっぱりお片付けかな。いつも身の回りをきちんとして他人に迷惑をかけたくない君にとって、突然の入院はさぞや心残りだったでしょう。でももういいんだよ。誰もが君のひたむきな生き方を認めているから。
容子、君は素晴らしい女性でした。僕の自慢の妻でした。だけど君の死とともに君の素晴らしさも、名前さえも忘れられてゆく…。
それが淋しくて新聞に投稿したところ、とても多くの人が容子のことを知って悲しんでくれました。また、たくさんの君の友達は本や雑誌やテレビで君と再び会えたことを喜び、君との思い出を新たにしています。
私も君の作った『七日間』の詩と52年間の一杯詰まった思い出を心に抱いてこれからの日々を過ごしてゆきます。待っていてください。
※女性セブン2019年11月7・14日号