臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々を心理的に分析する。今回は、東京五輪のマラソン・競歩開催地を巡り交渉が難航した国際オリンピック委員会(IOC)と小池百合子東京都知事を分析。
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2020年の東京オリンピックのマラソン・競歩の開催地がすったもんだの末、札幌に決定した。10月16日に突如IOCが発表した札幌への開催地移転。寝耳に水だった東京都の小池百合子知事は、この案に猛反発したものの、11月1日に開かれた4者協議では、「最終決定権のあるIOCの決定を妨げることはしない」として、「合意なき決定」を強調した。
IOCが突然札幌移転案を発表したのは、9月に行われた陸上の世界選手権女子マラソンで“ドーハの悲劇”が起きたからだ。競技当日、カタールの首都ドーハは夜間になっても気温が30度を越え、湿度は70%以上。深夜のスタートにもかかわらずレースは過酷を極め、選手たちは脱水症状で沿道に座り込み、バタバタと倒れていった。救急隊員が走り回り、選手たちがストレッチャーで運ばれていく映像が世界を駆け巡った。優勝タイムは世界選手権史上最も遅い2時間32分43秒。出場した68人のうち28人が棄権という最悪のレースだった。
このレースを目にしたIOCは、猛暑が予想される東京での開催を危ぶんだ。このままいけば東京オリンピックでも、選手たちが次々に倒れ込み、棄権するかもしれない。彼らの脳裏には、東京オリンピックのマラソンの光景にドーハの惨状が重なったに違いない。「過剰推測バイアス」が働いたのだ。
過剰推測バイアスとは、現実ではそのようなことは起こらないかもしれないのに、極端な場面を予想してしまう傾向のことである。だいたい来年の夏、東京の天候がどうなるか予測は難しいし、ここ数年、札幌の夏はどんどん暑くなり、東京より暑い日だってある。だが彼らの頭の中には、きっと札幌の夏は涼しいという思い込みがあったのだろう。そして、過剰推測バイアスによって不安を募らせ、極端な想定をしてしまったIOCは、東京での開催をこのまま待つことができなくなったのだ。