特殊詐欺による逮捕者に「普通の人たち」が加わるようになって数年が経つ。最近では、とうとう現職警察官が受け子をしていた疑いで逮捕された。彼らは普通の人たちにまぎれていた特殊な人たちだったのか?特殊詐欺関連の取材を続けるライターの森鷹久氏が、家族が特殊詐欺で逮捕され戸惑う家族の声から、普通と特殊の間に横たわるものについて考えた。
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「いい加減にしてくれ、俺たちは何も関係ない」
昨年、特殊詐欺で逮捕された男の関西地方在住の家族に電話取材をした際、その父親Aさん(60代)は当初、憔悴しきった様子で筆者の問いかけに答えていたが、ついには怒鳴り散らして一方的に切った。しかしその後、1時間も経たないうちに筆者の携帯に電話をかけてきたのも、また同じAさんだった。
つまるところ、息子が特殊詐欺で逮捕され、その息子の一番近しい存在であることは認めるものの、何も情報がない。取材をして何か知っているのであれば、逆に情報を教えてくれないか、そう懇願してきたのである。
このようなことは、特殊詐欺事件を取材している中で度々起きた。息子が特殊詐欺事件で逮捕されたという、九州地方在住に住む男性Bさんに取材をした時もそうだった。
「私は何も知らんのです…ところで、なぜ私のことがわかったんでしょうか? 逮捕後の息子とは一度も連絡を取っていない。取材に来た記者さんにどうなっているのかと聞くくらいで…」
特殊詐欺といえば、巨大で凶悪な犯罪組織が関与している重大犯罪である、という認識が根強い。だからこそ、まさか「普通の」息子や家族が、特殊詐欺に関わるとは信じられないと、家族は大きな衝撃を受ける。そうした認識は一方で正しい。しかし取材を続けていくうちに、特殊詐欺とは、誰もが、明日にでも関わってしまう危険性を秘めている「手軽な犯罪」であることがわかる。
特殊詐欺事件は、2000年代前半ごろから勃興した新型犯罪だ。何者かになりすまし、電話をかけた相手から金品を騙し取る、という基本形はそのままに、架空請求詐欺や還付金詐欺から始まり、今では現金の他に、デジタルマネーを騙し取る形も主流となっている。
逮捕されるのはもっぱら暴力団員や、半グレと呼ばれる暴力団と近しい若者たちだったが、近年では一般人が、そして現職の警察官、消防士、元プロスポーツ選手まで特殊詐欺事件の「かけ子」や「受け子」として摘発されるほど多様な人々が関わるようになった。その多くは、貧困に屈したが末に、SNSなどで「高額報酬バイト」などの書き込みを見て、自ら詐欺事件に加担するというパターンだ。