中古ピアノの買い取り大手であるタケモトピアノ(大阪府堺市)のCMで「ピアノ売って、ちょうだ~い」というフレーズに始まる軽妙なステップと歌声を披露したのは、財津一郎氏(85歳)である。自宅療養中の財津氏が今回、『週刊ポスト』の取材にCM撮影の秘話や、現在の生活について語った。
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──タケモトピアノのCMに出ることになった経緯を教えてください。
財津:もう20年以上も前のことだからね──。タケモトピアノは、東南アジアの貧しい幼稚園や小学校にピアノを送るボランティア事業をやっていたんです。かつて、高度経済成長下の日本では、ピアノを手に入れたがる人が多かった。夫婦が一生懸命努力して稼いで、子供のためにピアノを買っていたんです。その子供が独立した後は、ピアノが花瓶置きや本棚みたいになっちゃっていたので、それを回収してリメイクし、東南アジアの教育施設に送っていたんです。
僕も音楽が好きだし、ピアノも好きだから、ピアノをリメイクするっていうのはいいテーマの仕事だなと。しかもボランティアで東南アジアに送り出すという。それで話に乗ったんです。
CM撮影の時(1997年)は、僕はちょうど脳内出血で倒れた後で。だから、手術で剃った髪の毛が伸びてなくて、五分刈り頭だった。退院して最初の仕事が、タケモトピアノのCMだったんです。
──「ピアノ売って、ちょうだ~い」のフレーズやあのCM構成は、どのように生まれたのですか。
財津:社長さん、あ、今は会長さんですね(竹本功一氏)、彼が僕をすごく好いてくれていたこともあって出ることにしたんですが、撮影に入ってみたら、共演するのは当時の関西の名ダンサーたちでした。一流のね。僕はまだ、脳内出血で開頭手術した後で、やっと退院して現場に行ったら、すごい動きでしょ。ダンサーと一緒に踊ってほしいという話だったのですが、僕は「ちょっとあの動きはできない」って言ったんです。そうしたら振り付け師の方が「それじゃあ財津さんだけ当て振りでいきましょう」って提案してくれて、「ピアノ売ってちょうだい」「電話してちょうだい」って、あの動きを付けてくれた。
で、やってみたらとても評判が良かった。会社も成長して、CMもよく続いてね。「もう今年で終わりじゃないか」って思われてから何年も経っているんだけど(笑い)。いま僕は仕事していないので、僕の最低限の生活を守ってくれているのは、あのCMなんです。