人生100年時代においてもはや認知症は“新たな国民病”といえるだろう。厚生労働省の推計によれば、団塊の世代が75歳以上となる2025年には、全国の認知症患者が700万人にのぼり、65歳以上の5人に1人が認知症患者になるとみられている。予備群を含めると1000万人を超える日も遠くないとされる。認知症に詳しい蔵前協立診療所所長の原田文植医師が語る。
「現在、認知症の治療薬は存在せず、明確な予防法も確立されていません。ただ、認知症はある日、突然発症するのではなく、日々の暮らしのなかで少しずつ症状が顕在化していきます。患者さんに接していると、性格や生活習慣、日々の行動と症状の進行がリンクしていると感じることが多い」
特定の言動のパターンがある人は、症状の進行が早くなる傾向がみられるという指摘である。原田医師が続ける。
「なかでも、わかりやすいサインのひとつが“口癖”です。自分の脳は、自分の発言を一番よく聞いている。たとえば、1日に何度も『物忘れがひどくて』という人は、『物忘れがひどい自分』を認め、どんどん症状が悪くなることを自ら容認しているわけです。口癖は自分の状況を“指さし確認”しているようなもので、繰り返し口にするほど、そちらに誘導されてしまう」
2016年には世界80か国以上の研究者らで構成される「国際アルツハイマー病協会会議」が「軽度行動障害(MBI)」という指標を発表している。そこでは認知症の初期症状として「面倒くさい」「別にいい」などの口癖が増えることが挙げられている。おくむらメモリークリニック院長の奥村歩医師はこんな表現をする。
「私はよく『言葉は脳の状態を映す鏡』だといっています。認知症に進んでいく人は、早い段階から“悪い口癖”を言っていることが多い。逆に、いい口癖を身につけることで、進行を遅らせることも期待できます」
※週刊ポスト2019年11月22日号