重大疾患を早期に発見・治療し、命を守るためには、自分自身が「五感の異変」にいち早く気付くことが大切だ。しかし、健康診断に味覚の検査はない。食べ物の味に何となく違和感があっても、「気のせいかもしれない」とわざわざ問診時に医師に伝えない人は多い。
だがその状態を放置すると、様々な病気を引き起こしかねない。味覚は塩味、甘味、苦味、酸味、うま味の「五味」に分類され、加齢などにより感覚が鈍くなっていくことがある。その中でも衰えが病気に繋がりやすいのは「塩味」と「甘味」だという。東北大学名誉教授(口腔診断学)で歯科医師の笹野高嗣氏が指摘する。
「五味の中で甘味を感じにくい人は、糖分の過剰摂取により血糖値の乱高下を招き、動脈硬化が進んだり、糖尿病を招いてしまう。その結果、心筋梗塞などの心疾患のリスクが高くなると考えられます。一方、塩味を感じにくい人は、塩分過多により高血圧や脳血管障害を招きやすいと考えられます」
山陰労災病院(鳥取県米子市)が行なった研究によると、心疾患患者のうち塩味の感度が低下している人の割合は73.1%に達していた。また、高血圧患者はそうでない患者に比べて塩味の感度が低下している割合が有意に高かった。
「味覚の不調が病気を招くこともあれば、胃や腎臓などの働きが低下したことにより味覚がおかしくなることもあるのです」(同前)
塩味、甘味のほかにも「うま味」を感じられないことによる健康リスクもある。同じく山陰労災病院が行なった別の調査によると、入院患者など約300人を対象とした研究で、五味の中でもうま味の感度が低下した群は、肥満が有意に多かった。
「一般に、多くの人はうま味を感じることによって満足感を得ています。うま味さえあれば塩味や甘味が少なくても我慢できます。しかしうま味を感じられなくなると満足できず、塩味や甘味をどんどん濃くして肥満につながり、やがては糖尿病の合併症から命の危機を迎える怖れがあります」(同前)
※週刊ポスト2019年11月22日号