急転直下で札幌開催が決定した東京五輪のマラソン競技。ドタバタ劇はその後も収束の気配を見せないが、そうした中で相次いでいるのが、「アスリートファーストでない」との指摘だ。
大会組織委員会の森喜朗会長が「12月の国際オリンピック委員会(IOC)の場でコース承認を得る」との意向を示したことを受けて、「コースの計測・決定が遅れ、大会前に“プレ大会”が行なえなくなるとみられている」(スポーツ紙デスク)という。
事前にコースを試走することは、仕掛けどころなどのレース戦略を練る重要な機会となるだけに、選手にとっては大きな痛手だ。
1964年の東京五輪で8位に入賞し、1968年のメキシコシティ五輪で銀メダルに輝いた君原健二氏が指摘する。
「男子マラソンの場合、日本人選手は世界トップレベルの選手に比べ、スピード面で劣ります。それを緻密な戦略や技術でカバーするのが、日本が得意とするレース展開です。日本は東京のマラソンコースを3年にわたって研究していたが、札幌移転で水泡に帰してしまった。そのうえでプレ大会もなくなれば、海外勢との本来のスピード差が勝敗を分ける可能性が高くなる」
ただし、それは全選手に等しく課された条件だ。1984年のロサンゼルスで女子日本代表を務めた増田明美氏は、「気持ちを切り替えて前向きに走ってほしい」とエールを送る。
「北海道マラソンを踏襲したコースになれば、周辺に高いビルが少なく、直射日光を多く受けると予想されます。札幌は東京より気温が5℃程度低いと言われますが、選手にとっては負担になるでしょう。東京の暑さを知る日本選手は海外勢に比べても『猛暑対策』を入念に行なってきたので、日射しの中でも体調をピークに持っていければ、自分のレースを作ることができると思います」
政治的判断に“ペース”を乱されず、表彰台に上がる姿を期待したい。
※週刊ポスト2019年11月22日号