文京区湯島にある人気おでん店「こなから」は、出汁はもちろん、おでんダネもすべて一から手作り。その仕込みは営業開始の18時から10時間前、朝8時に始まる。
午前8時。神経を研ぎ澄まし、水から煮出した日高昆布を沸騰前に取り出す最適なタイミングも見逃さない。出汁は午前と午後の計2回仕込む。
澄んだ滋味深い出汁を生み出す4つの素材で出汁をとる。鰹節、鯖節、干し椎茸の石突き、日高昆布。椎茸の笠は出汁の色が黒くなるため使わないなど、美意識も宿る
関西風がベースだが、椎茸で出汁をとる際に関西や関東では一般的に使わない石突きだけの使用にこだわり、塩のみで味を整える。「いわば“こなから風”です」(店主・中田利雄さん)
出汁の仕込みが始まる少しあと、午前10時頃から、職人総出でおでんダネの仕込みが始まる。三つ葉やタケノコ、豆腐、ウズラの卵、胡麻などが入る「京がんも」はこの日、一気に100個を仕込んだ。
12時半。年季の入った鍋で「帆立入りさつま揚げ」を絶妙な加減で揚げていく。職人・春日健司さんは、店に10年通っていた元常連。味に惚れ込み、作り手になった。
数量限定の「ごぼう天」の仕込みが午後1時頃からスタート。ゴボウの太さに合わせてすり身を薄く延ばしていく作業は、隙間に空気が入らないように一層の時間と手間を要する
午後1時すぎ。蒸し上げたホクホクの北海道産の男爵いもは、ネーミングも楽しい「じゃが丸さん」に使用。「さん」と付くメニューの大半は中田さんが考案した。
タネが並ぶ銅鍋に出汁が注がれるのは午後4時半。特注品の瓢箪型の鍋は2代目。穴が空くまで18年間使い続けた初代の鍋は現在、新丸ビル店の入り口に飾られている。
支店の新丸ビル店や銀座店で使うタネも本店で手造りし、この調理場から配達される。「出汁を最初に練り込んであるタネもあります」(店主の娘で代表取締役の須田江利香さん)
こうして出汁とおでんダネが仕込まれ、一口食べるたびに出汁の旨味が染み出し、舌も身も心もじんわり温まる「こなから」のおでんが完成する。
●撮影/岩本 朗、取材・文/上田千春
※週刊ポスト2019年11月22日号