ヘッドホンを装着し、「ピー」「プー」などの音が聞こえたら手元のボタンを押す──健康診断でよくある聴力検査だ。
自覚症状のない難聴を発見するのに適した検査だが、これだけでは完全でない。川越耳科学クリニック院長の坂田英明医師が指摘する。
「そもそも難聴にはいくつもの種類があります。大きく分けて、炎症や感染症、耳垢などによって聞こえにくくなる『伝音難聴』と、聴神経に障害が発生したことで言葉の聞き分けが難しくなる『感音難聴』があります。加齢による難聴も感音難聴の一種であり、高い音や子音が聞こえづらくなり、『佐藤』と『加藤』、『洗う』と『笑う』などを聞き間違えます」
厄介なことにいずれのタイプの難聴も、脳の機能を低下させる原因となる。
「耳から入った音は脳に達し、記憶を司る海馬や、喜びや不安のもととなる扁桃体などを含む大脳辺縁系を刺激します。難聴になるとこれらの刺激が少なくなって脳機能が低下し、認知症やうつ病を発症しやすくなる。耳が聞こえにくくなることで人との会話を避け、孤立化しやすいこともうつ病や認知症を促進します」(同前)
難聴とうつ病、認知症の関係は国際的に認められており、2017年には国際アルツハイマー病会議が「難聴は認知症の最も大きな危険因子」と発表した。また米国成人1万8318人を調査した研究では中程度聴覚障害群のうつ病リスクが2.4倍に達した。
難聴は「耳の中」だけに原因があるのではない。中でも怖いのは「実はがんや脳腫瘍が原因だった」というケースだ。上咽頭がんにかかると、中耳に血管などから染み出た液体がたまる「滲出性中耳炎」を発症するケースがある。この中耳炎には自覚症状がなく、片耳の聴力が徐々に落ちていく。