各界の成功者たちは、ある共通体験をしている。子供の頃に読んだ本が、その後の人生に大きな影響を与えたというのだ。スポーツ界のレジェンドの原点にも、本との出会いがあった。
日本サッカー協会顧問でメキシコ五輪の得点王の釜本邦茂氏はこう語る。
「子供の頃に読む本は時代小説が多かった。中でも記憶にあるのは、野村愛正の『三国志物語』です。これを読んだことで、子供心に“勝負は勝たないといけない”と強く感じた覚えがあります」
日本サッカー史に残る“点取り屋”になれたのも三国志の影響があるという。
「無意識のうちに諸葛孔明の戦略と戦術が参考になったかもしれません。サッカーでも情報と分析は重要です。三つ子の魂百までではないが、性格だけでなく知識も頭のどこかに残っている気がします」(同前)
2017年、前人未到の永世七冠を達成し、棋士として初の国民栄誉賞を受賞した将棋の羽生善治氏が10代の頃に夢中で読んだ本は、ノンフィクション作家・沢木耕太郎の『深夜特急』だ。
15歳、中学3年生でプロ棋士となって以降、対局のための「移動」が日常になった。そんな羽生少年の傍らにいつもあったのが、著者がユーラシア大陸をザック一つで横断してイギリスまで旅するノンフィクションの名作だった。
〈『深夜特急』は沢木さんならではの表現力によって、見知らぬ国そのものの面白さ、そこに暮らす人々の息吹まで味わえます。それにも増してひかれたのは、1年の3分の1を旅先で過ごす、棋士人生の原点に似たものを感じたからかもしれません〉(朝日新聞2010年4月25日付)
羽生氏のプロ棋士としての旅は、35年以上過ぎた現在も継続中だ。