健康診断に嗅覚に該当する項目はないが、“鼻の衰え”は重大疾患のサインとなる。中でも注意すべきは、鼻そのものではなく脳の機能不全によって生じる「中枢性嗅覚障害」だ。川越耳科学クリニック院長の坂田英明医師が指摘する。
「脳の大脳辺縁系の機能不全によって生じる嗅覚障害です。脳腫瘍や脳梗塞などでも引き起こされますが、典型的なのは認知症。アルツハイマー型やレビー小体型では、最初に嗅覚障害で匂いがわからなくなり、その後に物忘れなどが生じると言われます」
2015年に米国で発表された1430人を追跡した大規模研究では、嗅覚障害がある患者のアルツハイマー型認知症のリスクは3~5倍で、認知症の前段階であるMCI(軽度認知障害)のリスクも2倍になった。
嗅覚はとくに衰えを実感しづらい。そこで「匂い」そのものよりも、嗅覚とも密接に関係する「味」の感じ方の変化に着目するのがよいという。判断の基準となるのは「過去の自分」である。
「例えば、いつもと同じ分量で淹れたコーヒーが何となく薄くなったと感じたら、嗅覚障害を疑ってほしい」(同前)
また「若いときと比べて最近は食べ物の感動がなくなった」として食べ残しが増えた人は、味覚に異常が起きている可能性もあるが、嗅覚障害で味が感じられなくなったとも疑われる。食材が腐っているのに気づかず食べてお腹を下したり、調理中になべの焦げ付きに気づかなかった場合も嗅覚の衰えが疑われる。
周囲の指摘から気づけるケースもある。たとえば、久しぶりに自宅に立ち寄った子供に、冷蔵庫から傷んだ食材の悪臭が漂っているといった指摘を受けた場合、単なる“うっかり”として片づけないほうがいいかもしれない。
※週刊ポスト2019年11月22日号