がんによる死亡者数は年間37万3334人にのぼる(2017年)。日本人の2人に1人が罹患するといわれる国民病だけに、家族にがん患者がいるという人は多いはずだ。日本には古くから「がん家系」という言葉が浸透している。遺伝はがんの発生率を考える上で、重要なファクターのひとつだ。一方で、遺伝や家系よりも「生活習慣」のほうががん発症に大きく影響するという説もある。だが、その詳しい相関関係はこれまで明らかにされていないことも多かった。
そうしたなか、10月に国立がん研究センターが「がんと家系の真実」に迫る興味深い大規模研究結果を発表した──。都内在住のA氏(60代・男性)は、日頃から規則正しい生活と、バランスの良い食事や適度な運動を心がけている。がん検診も定期的に受診しているが、たとえ検診結果が「正常」でも、常に拭いきれない不安を抱えているという。
「実は、父方の祖父が若くして大腸がんで亡くなっているんです。父親も50代前半で初期の大腸がんが見つかったことがある。私には今のところ異常がありませんが、それでも昔から“がん家系”という言葉があるので、自分も発症したらどうしよう、と気が気じゃないんです」
がん発症の主要因は「生活習慣」か、それとも「遺伝」か──これは長年にわたって世界中で研究されてきたテーマだ。それを解き明かすべく、世界各国で進められてきたのが「がん登録」制度などの疫学調査だ。
「がん登録」制度は、がん患者の症例を登録・解析して医学的な統計データを得ることを目的として実施されている。古くは1929年のドイツ・ハンブルグでの調査を皮切りに、1940年代には米・ニューヨークや英・ロンドンなどの地域でも始められた。スウェーデンでは1960年代から50年以上にわたって全国民のがん病歴が登録されており、多くの知見を生んでいる。