今年10月に、興味深い研究結果が発表された。国際対がん連合(UICC)が発行するがん専門誌『インターナショナル・ジャーナル・オブ・キャンサー』オンライン版に掲載された「がんの家族歴とその後のがんの罹患リスク」という論文である。論文は国立がん研究センターが中心となって行なっている多目的コホート研究「JPHC」(※)の一環として発表された。
【※コホート研究とは、疫学研究の手法のうち介入を行なわず対象者の生活習慣などを調査・観察する方法のこと】
10万3707人を、対象とした調査では、がん家族歴があると胃がんの罹患リスクが1.36倍上昇した。そして同様に「肺がん」は1.51倍、「肝臓がん」は1.69倍「食道がん」は2.11倍、膵臓がんは2.63倍、子宮がんは1.93倍、膀胱がんは6.06倍という結果だった。
研究では、すべての部位のがんを含む『全がん』の数値も出したが、家族歴がある人はない人に比べて、発症リスクは1.11倍上昇した。一方、今回の研究で、がん家族歴との関連に「統計的に有意な結果が出なかった」とされるのが大腸がん、乳がん、前立腺がんだ。
今回の大規模調査の結果を、長年がんと遺伝の関係を研究してきた専門家はどう見るのか。国立がん研究センター中央病院遺伝子診療部門長の吉田輝彦医師に聞いた。
「今回の調査で、生活習慣の影響をできるだけ除いても家族歴が統計学的にがんのリスクを上げていると分かったことは、がんの高リスク群を把握するのに有用です。ただし、そもそもすべてのがんには何らかの遺伝的要因が関係すると考えられています。それががん発症にどう関与しているかについて知るには、父方・母方別の家族歴や、がんの種類別の情報についてもっと詳しく調べていく必要があるでしょう」
また、吉田医師は今回の調査で示された「がんと家族歴の関係」を「遺伝」と同一視することは早計だとも話す。