テクノロジーの進化は、英雄が一日にして生まれることもある時代、をもたらしたのかもしれない。中国の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
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日本ではタクシー運転手が事件を解決する昼ドラが人気だが、最近の中国では路線バスの運転手が犯人を現行犯逮捕する映像がちょっとした人気を集めている。少し前まで路線バスの運転手といえば、わがままな乗客から暴行を受ける被害映像で有名だったが、風向きが変わったようだ。二つほど、ケースを紹介しよう。
11月13日、陝西省咸陽市のルート68の路線バスの運転手は、社内でひったくりに遭遇する。中国のひったくり事件では、犯人が武器を所持しているケースも少なくなく、たいていは見て見ぬふりをする。だが、当日バスを運転していた崔衛東はそうではなかった。中年の女性から現金をひったくった犯人を、バスから降りて約300メートル追跡して捕まえたのである。そのカネは父親の病気の治療のためのなけなしのカネであった。
もう一つは海南省海口市を走る路線バスの運転手、柳発森である。10月13日、柳はいつものようにバスを走らせていた。前方にはバスを待つ一人の男性が傘を差して待っている。そしてバスが近づいた瞬間、別の男が後ろから現れ、傘の男性に近づいて何かを抜き取った。
それを見た瞬間、柳はクラクションを鳴らして男性に知らせようとしたが、男性は気が付かない。仕方がないので柳はすぐにバスを止めて降りると、犯人を追いかけた。結局、その犯人は捕まった。
二つのケースとも犯行の一部始終が動画で残っていたため、ニュース映像として拡散されることとなった。