【著者に訊け】小手鞠るいさん/『ある晴れた夏の朝』/偕成社/1400円
【本の内容】
アメリカの8人の高校生が、広島・長崎に落とされた原子爆弾の是非について、肯定派と否定派に分かれて公開討論する。メンバーは、主人公の日系アメリカ人メイをはじめ、アイルランド系、中国系、ユダヤ系、アフリカ系と、そのルーツは様々。それぞれの置かれた立場から、真珠湾攻撃、日中戦争、ナチズム、アメリカマイノリティなどにも話がおよんでいく。息詰まる討論の行方と、その結末は──。アメリカ在住の著者が「戦争と原爆」の歴史と記憶、未来について問いかける渾身作。
昨年夏に出版された『ある晴れた夏の朝』は、広島・長崎への原爆投下がアメリカではどうとらえられているかを、肯定と否定の二手に分かれた高校生の討論会を通して描く。青少年読書感想文コンクールの課題図書にも選ばれ、このほど小学館児童出版文化賞を受賞した。今後も長く読み継がれていくだろう作品である。
「日本の読者にはあまりなじみのないディベートや討論会はアメリカではふつうに行われ、議論の場で自分の意見を言わないとすごく低く評価されるんです。大人になってからアメリカで暮らすようになった私も、異なる意見を持つ人と議論をたたかわす、というのが子どもの頃から習慣として身についていたらよかったな、と思うことがあります」
アメリカ人の父と日本人の母を持つ15才のメイは、ためらいながらも否定派の一員に加わる。肯定と否定、4人ずつに分かれた参加者は、アイルランド系、中国系、アフリカ系、ユダヤ系と多様な背景を持ち、メイ以外にも日系のケンが肯定派に入っている。勝敗を決めるのは聴衆の反応で、相手の出方を予想しつつ臨機応変に対応する討論会の場面がスリリングだ。
「原爆をテーマにした児童書を、というのは編集者からの提案です。私自身、『アップルソング』に続いて『星ちりばめたる旗』と『炎の来歴』という戦争3部作にあたる作品を執筆中、日系の女の子と日本人留学生の男の子のカップルが原爆について話し合う場面をまさに書いているタイミングでご提案いただいたので、願ってもない、ものすごくやりがいがあることだとお引き受けしました」
原爆投下の瞬間だけ切り取るのではなく、そこにいたるまでの経緯や、実験としての側面、日本人がどう受け止めているかについて原爆慰霊碑の碑文や教科書を参照するなど、思いがけない見方が次々提示される。戦争が、今も続くものとして意識させられる。
「アメリカにとって戦争は現在進行形のことです。私個人の考えは投影させすぎないように、肯定と否定の立場を公平に書いています。ぜひ、9人目の参加者として、自分ならどんな意見を持つか考えながら読んでもらえたら」
【小手鞠るい】
こでまり・るい 1956年岡山県生まれ。1993年『おとぎ話』で海燕新人文学賞、2005年『欲しいのは、あなただけ』で島清恋愛文学賞、2009年原作を手掛けた絵本『ルウとリンデン 旅とおるすばん』でボローニャ国際児童図書賞、本作でこの度、小学館児童出版文化賞を受賞。来年1月には、一人の女性の生き方を見つめて描いた母と娘の物語『窓』が発売予定。児童文学の枠に収まりきらない、小手鞠さんの新境地の作品となっている。1992年に渡米しニューヨーク州ウッドストックに在住。
◆取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2019年12月5・12日号