【書評】『痴漢外来 ──性犯罪と闘う科学』/原田隆之・著/ちくま新書/880円+税
【評者】岩瀬達哉(ノンフィクション作家)
プロゴルファーのタイガー・ウッズはセックス依存症からの完全復活を果たしたが、この性的依存症とは、どれほどキツいものなのか。著者のもとに通う患者によれば、それは「脳があたかも、セックスに乗っ取られてでもいたかのよう」だという。
このような「性的問題行動」に悩み、診療に訪れる外来患者のダントツ一位は「痴漢」で41.6%。ついで盗撮やのぞき、過度な風俗通いや浮気があり、露出、下着窃盗、小児性愛、強姦が続く。風俗通いは犯罪ではないが、これがやめられなくなると一晩に数軒のソープランドをハシゴし、借金から経済的破綻へと至ることになる。
興奮とスリルで「脳に心臓があるかのような感覚」になるのは薬物やアルコール依存症と似ているものの、訪れる患者たちの多くが「高い学歴を有し、家庭や仕事を持っている人たち」というのが、性的依存症の特徴だ(身近な隣人の中にも、その病に苦しむ人がいるのかもしれない)。
満員電車での痴漢は「ほぼわが国特有の犯罪と言っても過言ではない」ため、海外の論文では「日本にはchikanという犯罪があり、年間数千人が逮捕されている」と驚かれている。