諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師は、医師であると同時に作家として執筆にいそしむ多忙な毎日を送っているが、映画館にもこまめに通っている。2019年秋は鎌田氏いわく「面白い映画や一癖ある映画が豊作」だそうだ。そのなかからいくつかの作品を紹介する。
* * *
この秋の映画のラインナップを見ていて、テロを題材にした映画が目立った。「エンテべ空港の7日間」などもあるが、秀逸なのは「ホテル・ムンバイ」だ。2008年インドの5つ星ホテルで起きた事件の実話である。武装したテロリスト集団がホテルを占拠し、客とスタッフ500人が人質になった。32人の犠牲者を出すが、その半数は、客の命を救おうとして亡くなったスタッフたちだった。
信念だけでテロと立ち向かったホテルマンたちの物語に感動して、「ニュース23」のメーンキャスター小川彩佳さんと新聞の一面広告で対談した。彼女は結構な映画オタクだ。詳しい。
「ベル・カント とらわれのアリア」もまた、テロリストに占拠された副大統領邸が舞台だ。原作は、1996年、ペルーで起きた日本大使公邸占拠事件からヒントを得たベストセラー小説。人質たちとテロリストが、世界的オペラ歌手の歌によって心を通わせていく。暴力的な映像は少なく、音楽がもつ大きな力を感じさせてくれる。主演はジュリアン・ムーアと渡辺謙。さらに、個性派役者、加瀬亮が加わっている。
ドキュメンタリー映画の「人生、ただいま修行中」は、フランスの看護師の卵たちの成長を追った。監督は「ぼくの好きな先生」のニコラ・フィリベール。壁にぶつかり、自信を失くしながらも成長する若者たちの姿は、同世代の若者にも共感を呼ぶし、中年危機に差し掛かった年代にもあのころの情熱を思い出させてくれる。
日本映画の「駅までの道をおしえて」は、伊集院静の短編を原作にしているがとても美しく幻想的で、よくできている。小さな女の子と犬、そして、息子の死を受け入れることができない老人が絡みながら、限りある命の輝きを描いている。