音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、春風亭一之輔のネタ下ろし独演会シリーズ総集編の一夜から三夜までの様子についてお届けする。
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よみうり大手町ホールで10月21日から27日まで行なわれた「落語一之輔七夜」の全公演に通った。2014年の「一夜」から2018年の「五夜」まで毎年一夜ずつ増える形で5年連続開かれたネタ下ろし独演会シリーズの総集編で、「六夜」を飛ばして「七夜」となった今年はネタ下ろしはなく、「一夜」から「五夜」で初演した中から毎夜一席ずつ演じた。
〈第一夜〉一席目は新米泥棒が親分に甘えるお馴染み『鈴ヶ森』。二席目は十八番『初天神』を演じてから団子屋が父子を奉行所に訴えて後半へと突入する『団子屋政談』。金坊を大岡様が連れ回すバカバカしさから一転して心温まる結末に至るアクロバティックな展開の妙が光る。
三席目は「五夜」でネタ下ろしした『ねずみ』。卯兵衛の身の上話を生駒屋が話す兼好演出を継承、生駒屋のキャラで笑わせつつ、甚五郎の台詞には人情噺のトーンも。卯之吉の「七夕の短冊に『おっかちゃんを返してください』と書いた」という台詞には泣けた。「生駒屋の友情に打たれて」鼠を彫るという演出も見事で「私もあんな友達が欲しかった」という甚五郎の台詞が印象的だ。
〈第二夜〉一席目は鉄板ネタ『あくび指南』。聴く度にアドリブで進化して新鮮に笑えるのが凄い。二席目は「四夜」でネタ下ろしした『猫の災難』。酔いが回る一人酒盛りの描写の独創性に圧倒される。酒を「酒呑童子が来て飲んじゃった」という言い訳を思いついて妄想の一人芝居を繰り広げてからしみじみ言う「俺は面白いなぁ」に爆笑した。