今年4月、池袋で旧通産省工業技術院の元院長(88)が起こした交通事故は、母娘が犠牲になったにもかかわらず、送検まで半年かかり「『上級国民』だから逮捕されないのか」と話題になった。しかし実際、一般市民でも全く同じようなことをしているのに“逮捕される”“されない”が分かれる場合がある。その微妙な『境界線』とは──犬の散歩で「係留義務違反」の罪に問われた男性のケースを紹介する。
2018年11月、宮城県警は「飼い犬2匹をリード無しで散歩させた」として、県動物愛護条例違反(飼い犬の係留義務)の疑いで当時34歳の男を逮捕した。同条例は2001年に施行されたが、係留義務違反容疑での逮捕は初めてだった。往来を散歩中、あるいは広い河川敷などで犬を放している場面を目にすることは実際にあるが、それらの行為はすべて法律違反で、見つかれば逮捕、となるのだろうか。元検事で弁護士の田中喜代重氏が解説する。
「条例で係留義務が定められているとはいえ、原っぱで犬を放した人がいきなり逮捕・立件されることはないでしょう。逮捕されたケースでは、その1年前に『放し飼い中その犬に噛まれた』という相談が警察に寄せられていた。逮捕に至ったのは、条例に違反しかつ他人に害を及ぼす『他害行為』の疑いがあったからです。状況によっては傷害罪もあり得る」
飼い犬がリード無しでも散歩や外出ができる“いい子”だとしても、他人に噛み付いたが最後、条例違反に問われることは必至だ。
※週刊ポスト2019年12月13日号