綱紀粛正もここまでか、と思わせるエピソードである。中国の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏が指摘する。
* * *
少し前まで、中国の官僚といえば世界で一番幸せな職業だと思われてきた。少なくとも中国人の多くはそう思ってきた。
だが、それも習近平政権が幕を開けるまでのこと。反腐敗キャンペーンによって規律検査の嵐が吹き荒れると、賄賂のうま味はたちまち消えてしまったからだ。しかし、受難はそれだけにとどまらない。党員の仕事に高いモラルが求められるようになり、人民から厳しい監視の対象になった。このことは案外知られていないが、ちょっと木で鼻をくくったような対応でもしようものなら、たちまち「官僚主義」と処罰の対象となってしまうのだ。
さて、そんな官僚の受難に絡む新たなニュースを伝えたのは、『北京青年報』(11月1日付)である。タイトルは、〈浙江省温州の数名の幹部 先輩風を吹かしたり噂話で中傷したと通報され処分〉である。
記事のきっかけは浙江省の規律検査委員会のホームページで発表された三つの通報事例であった。いずれも「不作為」が処分理由となっている。不作為とは、まじめに仕事をしているふりをしながら、実際は何もしないといった問題を指し、処分対象となったのは現政権になってかのことらだ。
浙江省が公開した問題のなかで第一の例として紹介されているのが温州で処分された幹部の問題であった。処分されたのは同市洞頭区の交通運輸局に属する数名のベテラン幹部である。彼らの問題はタイトルにあるような「先輩風を吹かしたり噂話で中傷した」こと。それの何が問題なのかといえば、「他人の仕事の積極性を奪った」というのだ。
まあ、なるほどと思えないわけではないが、実態は「若い上司の悪口を言っただけ」ということらしい。なんとも世知辛い世の中である。