芸術作品は非日常的な空間で真面目に鑑賞するもの、という考え方もあるが、もっと普段の生活と地続きであってもよいだろう。人々が日常的に利用する場所である鉄道と、ふだんとは違う時間を感じさせるアートを同時に楽しめるイベントや場所の提供が目立っている現状について、ライターの小川裕夫氏がレポートする。
* * *
12月2日、東京・港区六本木で「特別展 天空ノ鉄道物語」のオープニングセレモニーが執り行われた。同展覧会はJR7社や東京メトロ・都営地下鉄のほか大手私鉄など、会社の垣根を超えて多くの鉄道事業者が協力している。会期は2019年12月3日から2020年3月22日までのロングラン開催。そこからも力の入り具合が窺える。
展覧会のアンバサダーを務めるのは、タレントの中川礼二さんと松井玲奈さんの2人。ともに、芸能界では大がつくほどの鉄道好きで知られる。
「特別展 天空ノ鉄道物語」は、引退した特急列車や寝台列車のヘッドマーク、懐かしい硬券や実際に使用されていた券売機、新幹線のカットモデルなどが展示されている。だから、一見すると鉄道関連の展覧会を思わせる。
実際、新幹線好きを公言する松井さんは、オープニングセレモニーで新幹線の先頭車両カットモデルが展示してあることに触れ、「私は今まで、新幹線が好きと言ってきました。今回、0系新幹線が展示してあるんですけど、頭の部分にアンテナみたいなものがついているんですね。そのアンテナは高い位置にあるので、普段は間近で見ることはできないんです。今回は間近で見ることができて感動しました。それで、私は新幹線のアンテナが好きだったんだと気づいたんです」と興奮気味に語り、報道陣から笑いを誘った。
このような発言から、今回の展覧会は鉄道マニアに向けた内容と受け止めることもできるが、開催場所は六本木ヒルズ森タワー内の森アーツセンターギャラリー(森美術館)。普段はアートイベントが開催される場所だ。鉄道イベントとは縁が遠い。
つまり、同展覧会は鉄道マニアをメインターゲットに据えているものの、鉄道一辺倒にはなっていない。アートイベントという趣も随所に盛り込まれている。それは、実際の展示物からも伝わってくる。