1983(昭和58)年、NHK連続テレビ小説『おしん』は、最高視聴率62.9%を記録、「オシンドローム」と呼ばれるほどの大反響を呼んだ。今年4月から再放送され、また話題になっている。脚本家・橋田壽賀子(94才)による骨太の構成といい、俳優たちの演技といい、古さを感じさせないどころか、ますます輝いて見える。
眺望絶佳の言葉そのものに、3面にガラス窓をとった静岡県熱海市の橋田家の居間からは、太平洋と伊豆大島が一望できる。その風景を背に、
「36年も経っていますから、自分で書いたことも忘れて、おしんがかわいそうって、涙ぐんでいるんです」
そう言って、橋田は澄んだ笑い声をあげ、さまざまなエピソードを明かす。
たとえば、少女編を演じた小林綾子(47才・当時10才)は、ロケ中、髪を洗わなかったために、髪がにおっていたと共演者が話したという。小林は、髪を洗ってかぜをひいてはいけないと考えてのようだが、期せずして髪を整える余裕もなかったため、あの時代の貧しい少女像がリアルに再現された。
大人になったおしんを演じた田中裕子(64才)とは、言葉はもとより目礼さえも交わさずに終わったという。
「私が思うに、田中さんは、この役も、作者の私のことも嫌いだったんじゃないでしょうか(笑い)。にもかかわらず、あんなに細かい芝居を立派にやり遂げて、名女優だなあと心から尊敬しているんです」(橋田)
田中や小林に限らず、橋田は、どのドラマの出演者とも個人的なつながりはもたないし、配役に口を出すことも一切ない。
「個人的に親しくなると、ひいきしちゃうかもしれないし、“よく書いて”と言われるのも嫌じゃないですか。例外は私の主人が“農村漁村女優”と言ってかわいがっていた泉ピン子だけ(笑い)」(橋田)
そう言いながらも橋田は、嫌われ役や自分の意に沿わない役も見事に演じ切った俳優たちのプロ根性を心から称えるのだった。
※女性セブン2019年12月19日号