【著者に聞け】横関大/『彼女たちの犯罪』/幻冬舎/1500円
【本の内容】
医者の妻で義父母と同居する神野由香里。夫の浮気と不妊に悩んでいたが、ある日、失踪、海で遺体として発見される。自殺なのか、他殺なのか。原因は夫の浮気にあるのか、犯人は夫なのか。一方、キャリアウーマンで仕事には恵まれているが、結婚願望の強い日村繭美は、“どうしても会いたくなかった男”に再会。しかし、その男と付き合い始めることになり、結婚も夢みる。そこに繭美の友人や大学の後輩などさまざまな「彼女」たちの人生が錯綜し、女たちの企みや嘘、罠が見え隠れするのだが、最後の最後までどんでん返しにつぐどんでん返しで、予断を許さない。
物語の冒頭、静岡県内の海で発見された女性の遺体のニュースが記される。警察は状況からみて自殺とほぼ断定する。
続いて医者の夫を持ち、姑に従順な専業主婦のこの女性、神野由香里の生前が描かれるが、彼女はなぜ自殺したのか。それとも…。
由香里のほかには、自由気ままに生きる元教師、やりがいある仕事を持ちながら、強い結婚願望に揺れ動くキャリアウーマンとその友人、冷徹で地味な刑事など、30代の女たちの日常が重層的に描かれる。こんな「彼女たちの犯罪」が、いつ、どんな動機でなされるのか。早く結末を知りたい。でも、一気に読んでしまうのは惜しい。
「2017年刊行の『仮面の君に告ぐ』のラストのどんでん返しで、大きく裏切る展開にしたのですが、編集者から、もっと最初からどろどろした女性の“何か”を描いては、というオファーで書き出した小説です」
何かとは、女の性であり、避けて通れない問題。不妊、不倫、結婚願望、セクハラ、パワハラ…これらに読者も翻弄され続けるのだが、それを狙いとして、「犯人は誰というざっくりした結末を決めて、あとはゆるめな設計図で書き進めました」という。
この設計図の下敷きにあったのが、作者のこんな分析だ。
「男の犯罪は名誉とか金、地位をめぐって起こることが多いと思うんですけど、女性の場合は自分のことが動機になっているのでは、という印象があるんです。それだけエゴイスティックというのか」
殺人は起こるけど、絶対的なワルもズルい人間もいない。男を糾弾する物語でもない。同時に誰の味方をする作者でもない。だから、ますます犯人の見当がつかない。
ところで、「彼女たち」の中で、作家自身が好きなタイプは?
「キャリアウーマンの日村繭美ですかね。でも、ぼくとは合わないと思います。気が強そうで衝突しそう(笑い)」
怖い女たちを描く作家の素顔は、優しく、礼儀正しい。
「江戸川乱歩賞を受賞したときから、ミステリーを書き続けると決めました。驚かせることも泣かせることも笑わせることも、いちばんいろいろなことができるジャンルがミステリーだからです。これからもこの思いは変わりません」
◆取材・構成/由井りょう子
※女性セブン2020年1月1日号